デジタル化でビジネスモデル一変 備えたい基礎知識は
『ビジュアル ビジネスモデルがわかる』
取引型は事業者が利用者間の契約を仲介するサービスを手掛けるのに対し、イノベーション型は第3者に製品やサービスの開発を補完させます。取引型ではサービスに参加する利用者が増えれば増えるほど取引できる商品の数や種類が広がるので、利用者の利便性は高まりサービス強化につながります。
一方のイノベーション型でも参加する生産者や開発者が増えれば増えるほど、自社の事業基盤をさらに強固にできるという仕組みです。どちらもコストを比較的かけずに、参加者を増やせば増やすほど他社より優位に働くので、急速に成長を拡大できる原動力になります。ここに著者は従来型モデルにはなかった、デジタル化時代のモデルの強さをみています。
企業やサービスの個別事例も豊富に紹介しています。定額課金が売り物の「サブスクリプション」では動画配信サービスの米ネットフリックスや米アップル、リクルート系の企業が運営する定額制の学習アプリ「スタディサプリ」を取り上げているほか、基本版を無料にして高機能版で顧客獲得を狙う「フリーミアム」ではSNSのLINEや、サービスは無料だが広告モデルで稼ぐ米グーグルの事例にも触れています。
デジタル化の潮流は不可逆的に
「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表される米IT大手が世界規模で事業を拡大し好業績を上げるなど、デジタル化の波は強まり、今後も規模や業種を問わず、世界各国でデジタル時代の新しいビジネスモデルはさらに広がりを見せそうです。
ひるがえって日本。感染が拡大した新型コロナウイルス禍で、くしくも国内でネット環境整備など、デジタル化への対応が声高に叫ばれました。今でも実にさまざまな業種で本書が指摘するようなビジネスモデルのパラダイムシフトは起きていますが、今後は広く社会へ、とくに公共分野を中心にデジタルが重要なインフラとなる日も遠くないことでしょう。在宅勤務を含むテレワークの導入が進んだ職場をはじめ、今はまだ一部にとどまっている教育現場や医療現場でもオンラインシステムの導入が進めば、社会で不可欠な公共財として市場は広がる可能性があります。
(第10章 加速するパラダイムシフト これまでの常識が通用しない時代へ 212ページ)
◆編集者のひとこと 日本経済新聞出版・永野裕章
わかりやすい解説でヒット書籍を多く出版している井上達彦先生。ビジネスモデル関連の書籍が数多く刊行されているなかで、本書の特徴は豊富な図表をもとに短時間で主要論点を学べる点です。
板橋悟氏のピクト図解のご協力も得ながら、直観的なわかりやすさが追求されています。たとえば、アマゾンやグーグル、ネットフリックスなどの「いまをときめく企業」のビジネスモデルも、シンプルな図表で表現されています。「あの会社はこうやってもうかっているんだ」という発見から、「自分たちはこうやって稼ごう」という意欲まで、様々なことに役立つ一冊です