「人生つまずかないよう」が一番危険 間違えは早めに
マネックスグループ社長 松本大氏(6)

松本大 マネックスグループ社長
当欄「ビジネスの視点」はマネックスグループ社長の松本大氏、ビジネス向けSNS(交流サイト)を運営するリンクトイン日本代表の村上臣氏、ユーグレナ社長の出雲充氏、KADOKAWA社長の夏野剛氏がビジネス関連の現状や展望などについて持論を展開します。
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同じ会社で働き続けることが当たり前でなくなり、転職や独立、起業とビジネスパーソンの選択肢は広がっています。一方、「これがやりたい」という明確な目標が見つからず、悩む人もいるでしょう。35歳で起業したマネックスグループ社長の松本大氏は意外にも「起業願望はゼロだった」と言います。「やりたいこと」「やりがいとお金」について、松本氏が語りました。
提案を却下され、イヤイヤ起業
学生時代に起業する人が増え、就活生の中には将来の起業を意識して就職先を選んでいる人も少なくないと聞きます。私は35歳で起業しましたが、実は直前まで一生、組織の中で勤め上げるつもりでした。起業などという概念は私の辞書にはなかったのです。ところが、当時勤めていたゴールドマン・サックス証券に「インターネットの時代が来るからオンライン証券を始めた方がいい」と提案したところ、却下されてしまいました。「自分にやらせてくれ」と言ったわけでもなく、「会社としてやった方がいいですよ」と勧めたのですが、それが通らなかったのです。でも、一金融人として「やらないという選択肢はない。やらなければ後悔する」と思い、誰もやらないなら仕方がないとイヤイヤ起業したのです。
最初からやりたいことがあったわけでもないし、組織で働くことに違和感もありませんでした。他人から見ると、自ら進んでリスクを取りに行くタイプに見えるかもしれませんが、私は自分のできる範囲でひたすら前進を続けてきたという感覚です。そういう意味で「やりたいことが見つからない」と悩む多くの読者と案外似ているかもしれません。
組織に所属していれば、新人であろうと自分1人では絶対に任せてもらえないような仕事に挑戦する機会をもらえます。そこで頑張れば、次のステップが見えてくる。経験を積む中で自分なりの座標軸が見えてくる。組織に属するメリットは大きいのですから、やりたいことがないと悩んだり、焦ったりするより、目の前の仕事に全力でぶつかってみることが大事だと思います。
私はキャリアをよく山に例えるのですが、まずは目の前の山を登ってみようよと。山の向こう側に何があるかなんて、登ってみなければ分かりません。昔の人はひたすら峠の上り下りを繰り返しながら、旅をしました。麓から川伝いに少しずつ登っていくと、途中で急な崖が現れる。ちょっとリスキーですが、そこを頑張って一気に登れば、峠に出ます。そこで初めて向こう側の町が見えたり、海が見えたりするのです。次に向かうべき町が分かれば尾根伝いに下りていく。するとまた別の山が現れるので、登って下る。その繰り返しです。
キャリアも同じです。私自身、起業後にいくつもの新しいことに挑戦しましたが、最初から「これをやるぞ」と狙っていたものはほとんどありません。課題を1つクリアすると、また別の課題が表れるのでクリアする。それを続けてここまで来ました。