「人生つまずかないよう」が一番危険 間違えは早めに
マネックスグループ社長 松本大氏(6)
今は選択肢がいろいろありますから、迷うこともあるでしょう。でも、そこでどの道を選ぶべきか、あれこれ分析に時間をかけるより、まずはどれでもいいから選んでやってみることです。「あれ、何か違うぞ」と思えば、軌道修正すればいいだけですから。世代によるものか、人間のタイプによるものかは分かりませんが、最近は将来のゴールを決め、そこに最短でたどり着くために、いま何をすべきかを考える「逆算思考」の人が増えているように感じます。そういう人は選択を誤りたくないという思いが強いんですね。

「人生でつまずかないようにしよう」は一番危険だ
でも、はっきり言って「人生でつまずかないようにしよう」と考えることこそ、私は一番危険だと思います。人間生きていれば必ず選択ミスは犯します。元大リーガーのイチローさんや大谷翔平選手でさえ、どんなに頑張っても打率は3~4割でしょう。絶対失敗しないとか、間違わないなんてことはあり得ません。だったら、早めに間違った方がいいのです。その方が軌道修正が効くのですから。
私はビジネス本の類いはほとんど読みませんが、若い頃、ホンダ創業者の本田宗一郎さんとソニー共同創業者の井深大さんの対談でこんな話がありました。ある時、病院の近くの公園で男がベンチに座っていると、向こうから男が走ってきて病院の塀を飛び越えようとした。塀を越えられずに激突した男は救急車で病院に連れ戻された。しばらくすると、またその男が走ってきて同じように塀に激突した。ベンチに座っていた男は「バカだな、あいつは」と笑っている。でも本田さんいわく、「バカ者はベンチの男の方だ」と言うんです。病院から抜け出そうとしている男はいつか必ず塀を飛び越えるだろうと。いい話だなあと思いました。
若い人は時間を味方につけられる
少し前に見た、お笑いタレントの矢部太郎さんの原作によるアニメ「大家さんと僕」ではこんなセリフがありました。主人公と大家さんが手をつないでゆっくり歩いているとき、大家さんが言うんです。「私は年寄りだから、転んだらもう先がないのよ。若い人は転べていいわね」と。これも深いところを突いています。転べば恥ずかしい思いをしたり、心に傷を負ったりします。でも、若ければ傷の治りも早いのです。年を取ればなかなか治りませんし、下手をすると致命傷になります。
私は投資の世界で生きてきましたが、投資と人生はよく似ています。日本では若い人は預金ばかりして、定年退職した人がリスクの高い投資信託を買うパターンが多いのですが、それは本来、逆であるべきなのです。若い人ほど一時的に多少損をしても、長期的にはリカバーできる。つまり時間を味方につけられるので、リスクの高い投資に向いているんです。逆に定年退職した人はもし失敗したら、それを取り返すだけの時間がありません。だから、リスク投資はしない方がいいんです。