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病室で最も困ったこととは

梶原「Aさんの症状は、どのレベルの病状だったのですか」

Aさん「肺炎が進んでいることから、主治医は『中等症にあたります。これ以上、悪化させないで、重症化を防ぐことがこれからの治療目標になります』と説明してくれました。はっきりとゴールを示してもらえて、ちょっと安心しました。ただ、『重症化した場合、エクモ(体外式膜型人工肺)という大型の装置を使う必要が出てきますが、この病院にはエクモの用意がないので、別の病院に移ることになります』とも言われ、『それは避けたい』と感じました」

梶原「入院中に受けた治療は、どういった内容だったのでしょう」

Aさん「基本的には投薬治療です。軽症者には飲み薬を投与する選択肢があるそうですが、私は肺炎が進んでいたので、点滴での投与と決まりました。薬液を約2時間にわたって、点滴で投与されます。昼食後のタイミングで点滴が始まります。そのほかに飲み薬が出ました。この飲み薬には血糖値を上げる作用があるので、血糖値を抑える飲み薬も出ます。インシュリン注射は1日3回。この投薬と注射、食事の配膳のときだけ、看護師が病室に入ってきます」

梶原「病室で困ったことやつらかったことは何ですか」

Aさん「困り事の筆頭は、病室から一歩も出られないことに伴う息苦しさ、閉塞感です。この病室には窓がありません。感染症治療用の隔離病室だから、当たり前の話ですが、日光を浴びられず、風も吹き込まない環境はかなりこたえます。それまでは当たり前だと思っていた、近所を散歩できる幸せを、失って初めて感じました。真っ白い壁や天井を見ると、閉じ込められているという意識が強まってしまうので、できる限り、目を向けないように心がけました」

「しかも、日々の人の出入りは医師と看護師だけ。感染症対策で接触を避けている事情から、会話は事務的な最低限の内容にとどまります。患者がドアから出ることは許されないので、13日間ずっと病室内にとどまっていたわけで、これはなかなか精神的にきついものがありました」

梶原「孤独によく耐えられましたね。退屈にも悩まされたのでは」

Aさん「携帯電話が使えたので、いくらかは孤独感を和らげるのに役立ちました。でも、電話は通話を切ると、すぐに人恋しくなってしまい、かえってつらくなることがわかったので、通話に頼らないように努めました。LINEも使えましたが、相手に気を遣わせてしまううえ、ずっとつきあわせるのもよくないので、次第に使わなくなりました」

「退屈しのぎで役に立ったのは、映画やドラマの視聴。無線ルーターを持ち込んだのは正解でした。病院のWi-Fiは利用不可でしたから。ただ、ずっと見ていると、利用データ量が上限に近づくので、そのバランスが難しいところでした。途中からはデータ量が大きい動画を避けて、読み物系のサイトを見るように変えました。著作権切れの小説を公開している『青空文庫』も役に立ちました」

梶原「入院前から退院まで、症状はどのように変化していったのでしょう」

Aさん「個人差があるようなので、あくまでも私個人の体験として述べれば、『症状のデパートであり、ジェットコースターでもある』という感じです。発症した当初は全身倦怠感や高熱(38度台)、呼吸困難、悪寒、頭痛、吐き気などが入れ替わり立ち替わり襲ってきて、体調のコントロールに追われました。食欲はほぼゼロに。体力が落ちて、PCR検査に向かうことすら難しくなりました。どうにか自宅療養で済ませようと試みたのですが、最後はギブアップ。呼吸がうまくできなくなり、肺が苦しくなって生命の危険を覚えたのが保健所に連絡する決め手となりました」

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