海城に似たリクルートで覚醒 カイゼンCEOの段取り力
須藤憲司・Kaizen Platform 代表取締役CEO(下)
商売を学びたいと早稲田大学商学部に進学。しかし、勉強はそっちのけで、マージャンやサークル、家庭教師のアルバイトに明け暮れた。熱中したのは就活だった。

「いかに最小限の努力で成果を出すか、ギアを上げる発想も大事」と話す
父の離職をきっかけに中学を卒業したら働こうと思い詰めたときから、社会の仕組みに興味がありました。就活は社会を知るまたとないチャンス。あらゆる業界を見てみようと、60人くらいOB訪問をしました。僕は人の顔を見て判断する癖があるので、どのOBがいい表情で仕事について語るのか、一人ひとりお会いしたOBをABCで評価していました。
学生の分際でと思われるかもしれませんが、起業後の資金調達で130人くらいのベンチャーキャピタリストと面談した際も、全員を採点していました。就活も資金調達も、「選んでもらう側」として卑屈になるのではなく、対等な立場で自分も相手を選ぶという意識でした。OBの中で、一番仕事のことを楽しそうに話してくれたのがリクルートの人たちでした。海城の校風と同じように、リクルートも自主性を重んじる会社だと感じ入社を決めました。
ところがマーケティング局に配属されて仕事を始めた途端に、挫折を味わいます。同じ部署に同期がもう一人いて、その人が飛び抜けて優秀だったのです。評価においても圧倒的な差をつけられ、先輩たちから「お前、もう終わったな」と言われるほど。劣等感にさいなまれていると、ある先輩から「お前、嫉妬してるの? 人と比較して悩んでるなんて、よほどヒマなんだよ。もっと目の前の仕事に集中しろ」と言われ、はっと目が覚めました。そうか、僕はヒマなのかと。翌日、上司に3倍の仕事を振ってほしいと申し出ると、本当に3倍にされて家に帰れない日々が始まりました。今思えば、その上司も胆力がありましたね。
この時、尋常じゃない量の仕事と格闘したおかげで、ものすごく段取り力が鍛えられました。量が質に転化したのです。同時に、単に頑張るだけじゃなく、頑張り方が大事なのだと学びました。例えば自分の企画書を通すのに、普通は先輩や上司に中身をどう改善すればいいか、アドバイスを求めにいきます。でも相談しているうちに、どんどん中身が変わってしまいますよね。最終目的は自分のやりたい企画を通すことなので、僕は先輩に中身を相談するのではなく、その企画を推してくれそうな役員は誰なのかを聞いて回りました。そして狙いを定めた役員がプロ野球の巨人ファンだと聞けば、巨人が快勝した翌日に渾身(こんしん)のプレゼンをする。即ゴーサインが出ます。アポが入っている前日に巨人が負けた場合は、おなかが痛いとか適当な理由をつけてキャンセルしていました。
振り返ると僕が大学受験のときに、いかに頑張らずに成果を出すかを考えていたというのも、レベルは違いますが、発想は同じだったように思います。自転車で遠くに行くには、一生懸命こぐだけじゃなく、ギアを上げることが重要です。そうすれば一こぎで進む距離が伸びます。今やっているDX支援の仕事も同じで、限られた時間とお金を使ってどれだけギアを上げ、クライアントの成長を加速できるかが勝負です。