元アップル副社長が語る イノベーションはなぜ必要?
『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』より

『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』著者の前刀禎明氏
『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』(日経BP)の著者、前刀禎明氏を知っていますか?――きっと「米アップル副社長としてあのiPod miniを大ヒットに導いた人」と答える人は多いはず。若い人なら「Clubhouseでよく話をしている"えらい人"」でしょうか? 「ライブドアの創業者」と言う人もいるかもしれません。同氏の「学び続ける知性」について、担当編集者が本書からひもとく。
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本書の担当編集から見ると、前刀さんという人は、恐ろしいほどポジティブで率直、消費者のライフスタイルの変化から他社のビジネス動向まで、目の前のあらゆることを観察し、驚いたり感心したり、時にはあきれたりしながら「面白いよね~」と笑っている人です。こう書くとなんだかのんきに聞こえるかもしれませんが、これこそが前述の活躍をしてきたマーケター、前刀禎明の本質。「面白いよね~」と楽しみながら、観察したこと、考えたことを自分の発想の源に変えてしまう。この本のタイトルにもした「学び続ける知性」と呼ぶべき力です。
この力、誰もが持ち得るものなのですが、私も含めて発揮できている人は案外少ないと感じます。それは前刀さんのように、日々出合う出来事について自分なりに推測し、考えるくせが身に付いていないからかもしれません。
例えば、本書には「イノベーションなきマーケティングから利益は生まれない」というパートがあります。やや挑戦的な見出しですが、このパートはある日、前刀さんが「『イノベーションを起こしたい』って言う企業関係者は多いけど、みんな、イノベーションが何かをあまり考えてないんだよね」と言ったのがきっかけで生まれました。その一節を見てみましょう。
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成長するのはイノベーションを起こした企業
「イノベーション」という言葉は、この10~15年ほどで急に広まりました。こうした言葉には、あっという間に廃れてしまうものも多いのですが、すっかり定着した、そういう意味では珍しい言葉かもしれません。しかし、このイノベーションとはいったい、何なのでしょうか。
何かは分からないけれど、この言葉で焦りや強迫観念に駆られるという人は多いようです。「会社が収益を上げるには、イノベーションを起こさなければ」「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)はイノベーションを起こしているけれど、日本企業にはそれができない」「うちの会社の古い体質では到底イノベーションなど起こせそうにない」。企業の経営者からもよく聞きます。実際、今、大きく成長している企業の多くは、この10~20年の間にイノベーションを起こした会社です。
米アップルは、iPodシリーズで携帯音楽プレーヤーを革新。今のスマートフォンの先駆けとなるタッチインターフェースを採用し、一気に普及させました。他社のスマートフォンより1年以上先行して投入されたiPhoneは世界的なシェアを誇っています。米グーグルは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにすること」を掲げ、情報検索の分野にイノベーションをもたらしました。その後も、クラウドや音声認識、画像認識で世界をリードしています。
最近で言えば、Zoomのインパクトも大きかった。パソコンやスマートフォンさえあれば、誰もが電話をかけるように手軽にビデオ会議ができるようになりました。こうした企業は、その製品やサービスの独自性でユーザーを獲得し、今や社会のプラットフォームとなりました。