元アップル副社長が語る イノベーションはなぜ必要?
『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』より
今では当たり前のことですが、iPhoneの登場によって、スマートフォンは初めて一般の人も使いたい端末になったのです。市場のニーズに自社だけが応えたとき、その会社は「市場をつくった」と言える。アップルは、まさにスマートフォン市場を創造したと言っていいでしょう。
発売当初はニーズが大きくなかったとしても、世に出た製品がニーズを掘り起こして、市場は広がる。今までになかったものを創って価値を提供した結果、人々が実はそれを欲していたことに気づいたり、新たに欲するようになったりする。すると今度は市場のニーズのほうから、自社ができることに近寄ってきて、スイートスポットが拡大します。
イノベーションが新市場をつくるというのはこういうことです。イノベーションが起こせれば、市場をつくり出すことができて、先行者利益が得られる。逆にできなければ、他社に追随する立場なので、激しい競争にさらされ、利益の少ないビジネスを強いられます。マーケティングの力でうまく製品を売ろうとしたところで、二番手、三番手に甘んじることになります。
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本書ではこのあと米アマゾン・ドット・コムや米グーグル、米アップルについて分析しながら、「これら企業の何がすごいのか」「イノベーションを起こすために、マーケターは何ができるのか」といった話に展開します。また、別の項では「ものが売れなくなった時代に、人がものを買うとはどういうことか」「真の顧客目線とは何か」といった話もしています。
この本で、前刀さんがやりたかったことは、マーケティングやイノベーションというテーマを入り口に、皆さんに一緒に考えてもらうことです。先に、前刀さんは「目の前のあらゆることを観察し、驚いたり感心したり、時にはあきれたりしながら『面白いよね~』と笑っている人」と書きました。まずはこの本で、みなさんにもそれをやってみてもらいたい。前刀さんの経験や考えを、驚いたり感心したり、時にはあきれたりしながら「面白いよね~」と楽しんでみてもらいたいのです。
きっとそこから得られる発想や発見があると思います。それこそが、学び続ける知性の始まり。学び続ける知性が身につくと、固定観念にとらわれない見方ができるようになったり、仕事に新たな楽しみが見つけられたりします。「新しいアイデアが浮かばない」と日々お悩みのマーケターのみなさん、「もっと仕事を充実させたい」と考えているすべてのビジネスパーソンの方々、この本があなたの学び続ける知性を発揮するきっかけになれば幸いです。
(日経BP 平野亜矢)
リアルディア社長。ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー・ジャパン、AOLジャパンなどを経て、アップル米国本社副社長兼日本法人代表取締役に就任。独自のマーケティング手法で「iPod mini」を大ヒットに導き、スティーブ・ジョブズ氏に託された日本市場でアップルを復活させた。アップル退社後、リアルディアを設立し、セルフ・イノベーション事業を展開している。著書に『僕は、だれの真似もしない』(アスコム)など。