転職戦略は「回数」で決める 賢い売りどきは2~3回目
経営者JP社長 井上和幸
「転職1回目」は期待大だが、リスクも潜む
ミドルやシニアが初めての転職に臨む際は、本人にとって期待と不安の入り交じるものです。でも、当人以上に、採用する企業側からしてもそうなのです。
40、50代まで1社でしっかり働いてきた場合。次のような見込みを、採用側は持つでしょう。「人物としては地に足のついた人だろう」「相応の幹部として活躍しているからには、現職で出世頭だったようだ」「社内では仕事のできる人として名の通った人物に違いない」――。
しかし、大半の企業は同時にこう思っているのです。「これまではそうだったかもしれないが、では今回当社に来て、果たして同じ成果を出せるだろうか」「当社の組織にはなじめるだろうか」と。つまり、期待と不安が入り交じった心理状況にあるわけです。
幹部層の転職を長く支援してきて、初めて転職する人たちから「自分は(新たな環境に入っても)大丈夫です」という言葉を数えきれないくらい聞いてきました。もちろん、異なる職場・企業にスムーズに適応できたケースが多いのですが、ものの見事に不適合を起こした人も見ています。
大手企業で幹部経験を持ち、本社で活躍してきた人のケースです。「自分はこの会社には実はなじめない異分子なんですよ。旧体質な組織の中で、どんどんプロジェクトを進めてしまう気質なので。窮屈な場にはこれ以上耐えられず、素の自分のままで思い切りやれるであろうベンチャーに移籍したいんです」。転職前にはこのように述べていた人です。
その念願がかなって、某成長ベンチャーに参画。半年ほどが過ぎたところで会う機会があって話を聞くと、すっかり憔悴(しょうすい)しきった様子でした。「いや、井上さん、自分が甘かったです。本当のベンチャーが、いかに自分で判断し、動かなければならないか。実際にその場に身を置いたら、自分はぬるま湯の中で偉そうに動いていただけだったんだなと思い知らされました」。結局、その人は再びの転職を選択。成熟市場の中堅企業で管理職となり、身の置き所を落ち着かせました。
ミドルやシニアで初めて転職する人が転職先で働き始めて気がつくことは、これまでいかに恵まれた環境の中でやっていたのかということです。一緒に働いてきた同僚や部下、時に上司でさえ、こちらのことをよく理解してくれているから、「あ・うんの呼吸」で動いてくれる。一定以上の主要企業であれば、至れり尽くせりの制度や支援部門があり、サポートを受けられる。転職するということは、こうした無形資産をいったん全て捨てて、新天地で新たに獲得していかなければならないということなのです。
もちろん、何がしかの思いやテーマがあり、今、初めての転職に踏み切ろうとしているわけです。そのチャレンジは応援されるべきですし、背中を押してあげたいと私も思います。
だから、上記のようなことが実際に自分にも当てはまる、降ってかかる可能性があるのだということをしっかり認識してほしいのです。応募先企業に対しては、その覚悟を持ったうえで、転職に臨む姿勢や環境適応力、柔軟性をしっかり伝えることに努めましょう。