イノベーションに実績などない 出資求め501社回る
ユーグレナ社長 出雲充氏(1)

出雲充 ユーグレナ社長
当欄「ビジネスの視点」はマネックスグループ社長の松本大氏、ビジネス向けSNS(交流サイト)を運営するリンクトイン日本代表の村上臣氏、ユーグレナ社長の出雲充氏、KADOKAWA社長の夏野剛氏がビジネス関連の現状や展望などについて持論を展開します。
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ユーグレナ社長の出雲充氏は「ミドリムシで世界を救う」と大志を抱いて創業しました。営業に行っても相手にされず、会社存続の危機に何度も遭遇しながら、不屈の精神で健康食品やバイオ燃料の開発に挑み続けてきました。その原動力はどこにあったのでしょうか。出雲氏に振り返ってもらいました。
(2)ベンチャーこそSDGsの担い手 2025年に価値観が大転換
バイオ燃料で日本の空を飛んだ日
6月29日、私はスーツの上に緑色の襟の法被を羽織り、羽田空港で待つ報道陣の前に降り立ちました。私がその日、鹿児島空港から羽田まで搭乗したのは民間の小型ジェット機。ミドリムシを原料の一部とするサステナブル(持続可能)なオイルという意味を込め、「サステオ」と名付けたバイオ燃料で、この日初めて民間の飛行機が日本の空を飛んだのです。これまで自動車や船舶などにバイオディーゼル燃料を導入した実績はありましたが、飛行機にバイオジェット燃料を導入するのは初めてでした。
なぜ、この記念すべき日に法被を着たのか。私の頭にあったのは1966年の同じ日に法被を着て、羽田に降り立ったビートルズの姿です。彼らの来日は日本のロック史の新たな幕開けでした。55年後の2021年6月29日がバイオ燃料で空を飛ぶ時代の幕開けになってほしい。そんな願いを込めたのです。
バイオ燃料の開発を視野に入れ始めたのは08年。20年を目標に、「石にかじりついてでも」という思いでやってきましたが、正直、ここまで大変だと分かっていれば、挑戦しなかったかもしれません。
一番大変だったのは株主や投資家、行政などの関係者から、「リスクゼロ」「100%の確実性」を求められ続けたことでした。リスクゼロとか100%確実などというのはサイエンスの世界であり得ないことですが、皆さん二言目にはそれをおっしゃるのでした。
米テスラの自動運転車が死亡事故を起こしたというニュースがこれまでに何回かありました。もちろん貴い人命が犠牲になることがないように、製品やサービスを作る企業がリスクを最小限にすべく努力するのは当然のことです。ただ、米国では事故があったから自動運転車の開発がストップしたという話は聞きません。一方、まだ何も始まっていない段階からリスクゼロを求める日本。この差は何なのだろうと暗たんたる気持ちになることもありました。
スタートアップ企業はもちろんのこと、大学や企業の研究者、会社の上層部から新規事業を考えるように命じられたビジネスパーソンでも、新しいアイデアをプレゼンテーションした瞬間に「ところで実績は?」と聞かれたことがある方は少なくないのではないでしょうか。