イノベーションに実績などない 出資求め501社回る
ユーグレナ社長 出雲充氏(1)
ユヌス氏は現在81歳。国連のSDGs(持続可能な開発目標)の1丁目1番地である「貧困撲滅」を本気で実現しようと、今も不断の努力を続けています。ユヌス氏と話をすれば、全く諦めてなんかいないことがひしひしと伝わってきます。そんな姿を間近に見ながら、「日本でバイオ燃料によって飛行機を飛ばすのは大変だから諦めます」なんて絶対に言えません。もしユヌス氏が身長10メートルで、恐竜並みのエネルギーを持っていたら話は別です。でもユヌス氏の身長は私たちと全く変わらない。つまり、最初からイノベーションを起こせる人、起こせない人の差があるわけではないのです。
イノベーションは数学的には変局点、物理的には臨界点と似ています。水はセ氏99.9度までは湯だけれども、大気圧のもとでは100度で水蒸気になる。たった0.1度の差で水という液体が全く性質の異なる気体になるのです。反対に0度を境に氷という固体になる。その変局点、臨界点を超えるためには何が必要なのか。私が思い出すのは2014年に青色発光ダイオード(LED)による照明革命でノーベル物理学賞を受賞した天野浩氏と交わした会話です。
成功するまでトライを続ける
こんなやり取りがありました。「出雲くん、ミドリムシでは苦労しましたね」「いやぁ、大変でした。不可能と言われていた大量培養を必死の思いで成功させたのに、3年間で営業に500社回っても全く相手にされませんでした。501社目の伊藤忠商事さんにようやく出資してもらって救われました」「ほう500回ですか」「天野さんは何回ですか?」「1500回実験して1500回失敗しました。まぁ、さすがに1500回実験を続けた人は僕しかいませんでした」。そう言って天野氏は笑いました。
つまり、臨界点を超えられるかどうかは「超えるまで続けられたかどうか」だということです。大抵の人は2~3回で諦めます。いや、実際は1回もトライしていない人が大多数じゃないでしょうか。でも、本気で前例のないイノベーションを実現しようと思えば、成功するまでトライを続ける以外にないのです。
今、最大のイノベーションを求められているのがSDGsの世界です。当社は創業15周年の20年、ミドリムシの会社から「サステナビリティー・ファースト」の会社へとステップアップしました。私は25年を境に、金融資本主義からサステナビリティー・ファーストに世の中全体の価値観が大きく変わると信じています。なぜ25年に革命が起きるのか。次回はそのことについて話します。
1980年広島県生まれ。2002年東大農学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。05年ユーグレナを創業。同年、世界初となる微細藻類「ミドリムシ(学名・ユーグレナ)」の食用屋外大量栽培に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤンググローバルリーダー。第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。経団連審議員会副議長。
(ライター 石臥薫子)