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言葉惜しみをしない 言わない「一線」を決める

「言葉数を惜しまないで、丁寧に言い表す」という第3のルールは、面倒くさく思えるかもしれない。誤解の多くが「端的な表現」に由来している。ある状況や出来事を表現するのに最も好ましい言葉がたった1語やワンフレーズで選べるとは限らない。むしろ、複数の言い回しを使わないと、意味合いを伝えきれない場合のほうが多いだろう。だから、多面的に言い表すのは、誤解を避けるうえで有益だ。言葉数の少ない断定調は、発言者の威厳を示すのには役立つかもしれないが、半面、誤解のリスクも大きくする。

先の新プロジェクトチームの例で実際の役員会の決定が「条件付きのゴーサイン」だったとしよう。「業績が回復すれば」「市場調査の結果をみて」などの付帯条件が示されている場合、言葉選びは一段とデリケートになる。単純な「ゴーが出た」では不十分だ。メンバーに現実を理解してもらうためには、「無条件ではない」と否定形で述べる言い方のほうがミスリードを防ぐうえで役に立つ。肯定と否定を組み合わせた説明は状況を立体的にみせて、情報を補う効果がある。肯定形の「ゴーが出た」だけでは勇み足となるだろう。

第4のルールは「言うべき範囲を十分に整理する」だ。言い換えれば、「言わないことを決める」。この手順を怠ると、余計なことをしゃべりすぎたり、逆に情報を封じ込めすぎたりしかねない。過不足のない発信は難しいからこそ、あらかじめ「ここまでは話す、この先は黙る」という線引きが重要になってくる。

「しゃべりながら考えればいいや」は甘い。対話を重ねるうちに、どんどん先へ踏み込んでしまいがちだ。筋の通った境界線を見極めるには、落ち着いて事前に線引きするのが望ましい。

先の新プロジェクトのケースで、役員会の議論では「本業のなりゆきを見守りたい」という、様子見ムードが強かったという、文書には書かれていない情報を、出席した役員の1人から得ていたとしよう。この聞き取り情報をチームに丸ごと伝えてよいかどうかは、判断が難しいところだ。話してくれた役員の思惑がみえないのに加え、本当にそういう雲行きだったのかどうかもはっきりしない。要するに「裏が取れていない」という状態だ。

その役員との親密度にもよるだろうが、不確かな情報を、まるで事実であるかのようにチームへ伝えれば、次は「課長が言った」という事実として受け止められ、外へ広がる。つまり、新たな「事実」が生まれてしまうわけだ。これは本来の意味での事実ではない。誤解の余地がある。あやふやな情報をうのみにして、チームに混乱を招くのは、賢明なリーダーの振る舞いとは言いにくいだろう。

もし、伝えるのであれば、情報提供者の役員から、もっと詳しい会議の流れを聞き取ったり、発言の裏に潜む真意を引き出したりするような情報の精度アップが必要かもしれない。ほかの役員に接触して、別の角度から検証してもいいだろう。

そうした補強を重ねたうえであれば、「公表情報ではないけれど、チームに伝えるべきだ」と判断して、自分なりに集めた伝聞情報として、チームに伝えるという選択肢があり得る。もちろん、材料が不十分なら言わないという判断も視野に入る。その微妙な判断を導くためにも情報の肉付けが欠かせない。右から左に受け売りする態度は、誤解を招くリスクが高い。往々にして誤解は不用意な「しゃべりすぎ」から引き起こされるものだ。

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