チーム重視の三菱地所 新人研修で「自分を知る本」
同書には、キャリア形成について気になる記述もあった。営業トップのセールスマンが、努力すれば優秀なマネージャーになれると信じて、ビジネス書を読み込み、家族や自分の健康さえ犠牲にして毎晩遅くまで働く。しかし数年後、彼は自分には人を育てる才能がないことに気づく。著者は「時間のムダだっただけではなく、優秀なセールスマンの役割にとどまっていれば、もっと会社に貢献できたはず」「ほとんどの会社の経営陣は、その人の才能にあった特定の役割でキャリアップをはかるのではなく、まったく違う役割につくことを求めてくる」と手厳しい指摘をしているのだ。

「圧倒的にチームを重視する会社」と語る武居さん
三菱地所では、強みにフォーカスすることとキャリアパスや人事ローテーションの関係をどう捉えているのだろうか。
「最近はジョブ型雇用も注目されていますし、専門性を磨いてより個として強くなることに力点を置く考え方もあります。ただ当社は個かチームかといえば、圧倒的にチームを重視する会社です。人事の方針としても10年間に3つの部署を経験することを基本としています。私自身2016年に入社して開発の部署に配属され、3年後に人事部に異動しました。得意な領域だけをやっていたのでは得られない知見やノウハウを得ることができていると実感しています。ジョブローテーションがあることで、それこそ自分では気づかなかった資質を伸ばして強みにすることができ、組織力も向上させることができると考えています」
自分の強み、「型」にはめすぎないで
ちなみに武居さん自身は、「自我」や「ポジティブ」などの資質が上位に来たそうだ。同書の解説によれば「自我」が高い人は、意義のある人間、信頼できるプロフェッショナルとして他者に認めてもらいたいという思いが強い。
「他の適性検査でも似たような特性が指摘されていたのですが、自我に関しては周りの人から『意外』と言われることもありました。新入社員でも、提示された資質についてしっくりこないと感じた人もいるでしょう。ストレングス・ファインダーは物差しの一つにすぎないのですから、それでいいのです。ただ、自分を見つめ直すための『とっかかり』としては有効だと思います。オープンにして周囲の反応を聞くことで、自分が周りにどう映っているのかを客観的に知ることもできますしね」
ストレングス・ファインダーは就活時に自己分析の一環で使う人も少なくない。すべてのエピソードを、適性検査などで診断された「強み」に収れんするよう、きれいにまとめて話す学生が多いとも聞く。武居さんは、面接の攻略法などに書かれている型に合わせ過ぎると、自身の個性や持ち味を十分に伝えられないと危惧する。
「一定の『型』に当てはめれば間違いないと思ってしまうのは致し方ない面もありますが、当社としては、できるだけ学生さんの素の良さ、本来持っている強みを引き出せるように、面接の仕方にも工夫を重ねていきたいと思っています」
(ライター 石臥薫子)