変化の時代のリーダーシップ カリスマ性より謙虚さ
人生の景色が変わる本(23) 『謙虚なリーダーシップ 1人のリーダーに依存しない組織をつくる』

エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン著、野津智子訳 英治出版 1980円(税込)
女性活躍推進が叫ばれるなか、実際の現場ではリーダー職を避けたがる女性が多いのが実情だ。だが私たちの多くが、リーダーとは「常に大胆で非凡なことをする"強い"存在であるべき」「何もかも自分ひとりで抱え込まなければならない」という固定観念にとらわれていないだろうか。本書ではそれとは全く違うリーダー像を提示。
グループのメンバーが心から信頼し合い、率直に話し合うことができる関係性をつくり上げること、それによりメンバーひとりひとりが主体性を持ち、積極的に変革を起こせるようにすること。それこそが、絶えず変化する時代に求められるリーダーシップだと説く。さらに企業や医療機関、軍隊、国家政府まで、豊富な事例を通じて、自ら進んでメンバーに助言を求め、彼らの意見に耳を傾けようとするリーダーたちの姿を紹介。その考え方や実践は、現リーダーやリーダー候補者のみならず、組織で協力して何かを成し遂げようとする人すべてにとって、希望となり、ヒントとなるはずだ。
要点1 複雑化が増す時代に「謙虚さ」は不可欠
これまで多くの組織は、トップダウン型、階層型の経営文化で運営されてきた。だが世界中の組織の地球規模でのつながりや、製品の数や種類の増加、加速度的な技術進歩のスピード、多文化主義などが進む環境においては、リーダーは絶対的に謙虚にならざるを得ない。なぜなら、あらゆる答えを見つけられるだけの知識を、ひとりの人間が持つことは事実上不可能だから。状況が絶え間なく変化する世界で生き残るには、各メンバーが、上からの指令をこなすだけでなく、変革のデザインと実行に積極的に関わることが不可欠だ。
要点2 リーダーとメンバーには「個人的な関係」が必要
リーダーとメンバーとの関係は「1 .全く人間味のない、支配と強制の関係」「2 .ほどほどの距離感を保った単なる業務上の関係」「3 .個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係」「4 .感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係」の4つのレベルに分けられる。現状では「2 .単なる業務上の関係」が築かれている組織が多いだろう。だが、仕事そのものの性質が急速に変化している現在においては、そこから一歩進んで「3 .個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係」へとシフトすることが必要になっている。そうした関係ができていれば、立場の上下にかかわらず、有用な情報や専門知識を持っている人が自由に発言し、結果、グループの目標を推進できるからだ。