東大より「安い」ハーバード 開成卒起業家の賢い選択
「僕は柳沢チルドレンですね」と笑う大柴さん。開成から米国の有名大学を目指す生徒が徐々に出てきた。しかし、米国大の入試システムはペーパーテスト重視の日本とは全く違う。日本の共通テストに相当するSAT(大学進学適性試験)のほか、高校の成績や面接、課外活動など総合的な評価で合否が決まる。
全米の秀才が集まるハーバードのSATの合格者平均点は9割に達するため、単純な学力では差はつかない。合格を勝ち取るのは、国際科学オリンピックなどで賞を獲得した天才タイプの生徒か、社会貢献をしたり、ユニークな活動をしたりしたモチベーションの高い自立型の生徒だ。大柴さんは「自己PRのライティングが奏功した。クイズでの活動やディベート大会での貢献をうまくアピールできた」という。
大柴さんは海外大合格専門の塾に通い、開成出身でエール大学に進学した先輩や渋渋出身の知人とフェイスブックで情報交換をしたりして、米国の入試のノウハウを伝授してもらった。この結果、ハーバードのほか、プリンストン大学やエール大学など米東部の名門大学に次々合格した。
「ハーバードが断然安かった」
しかし、最大の難関があった。費用の問題だ。「米国の大学の学費や生活費は到底払えないのでは」と親は心配した。ちなみに東大の場合、2021年の入学金は28万2千円で、年間の授業料は53万5800円。ここに交通費や昼食代などが加算されても、初年度の親の負担額は100万円程度だろう。
ところが、この問題はすぐに解決された。「実はハーバードの方が東大より自己負担の費用は安かった」と大柴さんは話す。米国の名門私立大の学費は年500~600万円と高額だが、奨学金制度が充実している。3校とも合格者の世帯所得に応じて奨学金を決め、自己負担額を算定してくれた。ハーバードの場合、原則全寮制だが、「うちの自己負担額は学費に食事代を含む寮費を合わせても年間80万円程度。他の2校はこの2~4倍の負担額で、ハーバードが断然安かった」という。大柴さんが特別待遇を受けているのではなく、資金力の豊富なハーバードでは、約7割の学生が給付型の奨学金を受け取っている。世界トップ級の大学は、優秀な学生を確保するためには、経済面の支援も惜しまない。
2014年秋、大柴さんはハーバード大学に入学した。ただ、寮生活は期待したほど快適ではなかった。「監獄とは言いませんが、老朽化した寮に1年生は4人1部屋。食事も今ひとつだった」という。最初はスラングの英語についていけなかったが、ルームメートとはほどなく打ち解けた。同級生のルーツは欧州系やアフリカ系、中国系など様々だが、「ハーバードは人権問題には特に厳格。日本人だからと差別されたことは1度もない」と話す。