大ヒットからの大低迷 ポッキーが起死回生できた理由
江崎グリコ「ポッキー」(下)
「空気」にならないための戦略
槌田氏の語る通り、市場に投入されてから年月がたつにつれて、知名度の高いブランドであっても購入機会が徐々に減ってしまうケースはある。ロングセラーが終売を迎えたニュースが報じられると、消費者からは決まって惜しむ声が上がるが、その中には「気が付けば数年、手に取っていなかった」という反応も多い。
「空気」にならないための戦略として効果を上げているのが「記念日」の設定だ。1999年から、毎年11月11日を「ポッキー&プリッツの日」に設定し、集中的な販促活動を実施している。
この「ポッキー&プリッツの日」は、企業側が設定するだけの自己満足に終わっていない。LINEリサーチが国内の15~59歳の男女を対象に実施した調査(2020年、有効回収数5252サンプル)では、この日を「知っている」と答えた割合が全体の9割に及んだ。なぜ、ここまで浸透しているのか。
「実施し始めて10年ほどは、社内の認知度を上げていくのもなかなか大変で、当時のマーケティング担当者が各支店を行脚しては、盛り上げるための草の根運動をしていたと聞いています。転機は2012年ごろ。ツイッターが国内で定着してきた段階で、『#ポッキー』でのツイートを呼びかけたところ、24時間で最もツイートされたブランドとしてギネス記録に認定されました。記念日に向けて、お客様にも『参加』してもらう企画をいかに打ち出していくのか。毎年意識しています」

江崎グリコは消費者の食べ方を常にウオッチしている(写真はイメージ)
消費者、そしてブランドのコアなファンの動向をつかむため、槌田氏をはじめとしたマーケティングチームのメンバーは、「SNS(交流サイト)に張り付くようにしてエゴサーチしている」という。ゼロの状態から無理に何かを仕掛けるよりも、すでに消費者の間で話題になっているポッキーの食べ方や楽しみ方を、同社がすくい上げ、広げていく。そうした形を取ることで、実際に成功したプロモーションも少なくない。
バレンタインデーに合わせ、複数のポッキーのパッケージを並べて、ハートをかたどった写真を撮影・投稿し合うなどする「ハートポッキー」。夏の暑い時期に冷凍庫でポッキーを冷やして食べる新しい提案「凍らせポッキー」。こういったプロジェクトがその一例だ。
「古くは1970年代の『ポッキー・オン・ザ・ロック』も、街のバーですでに流行していた楽しみ方をヒントに打ち出した戦略でした。ポッキーは、単なるお菓子ではなく、コミュニケーションの間にあるお菓子。押し付けるのではなく、キャッチアップ(追い付く)していくのがポッキーらしいスタイルといえるかもしれません」
国内の菓子市場は、少子高齢化の影響で頭打ちとなる中、すでに米国や中国、シンガポールなど世界30の国と地域で販売されているポッキー。2019年にはインドネシアに現地生産を可能にする工場建設を発表するなど、同社の海外展開はさらに本格化している。ロングセラーを支えた商品力とマーケティングのノウハウを結集し、新たな攻め方をどう打ち出していくか。世代を超えたポッキーは、国境や文化も超えようとしているようだ。
(ライター 加藤藍子)