「やめる」という選択で開く ポストコロナの人生設計
『「やめる」という選択』より
世界はもう、「元には戻らない」
全世界を巻き込んだ根本的な変化、いわゆるグレート・リセットは、実はいまから25年ほど前にも起こりました。それは、インターネットの登場です。
今回のパンデミックと同じように、インターネットの黎明(れいめい)期も、僕たちの目の前の景色はそれ以前の時代と比べて、さほど変化はありませんでした。しかし、次第に家庭やオフィスにパソコンが設置されていき、やがてひとりにつき1台持つほどにまで普及すると、テレビ以外のディスプレーが家にある状態は常態化しました。
携帯電話を手に街角で電話する人が増え、ひとたび電車に乗ると、以前は新聞や漫画だったのが、みんなが下を向いてメールやネットサーフィンやゲームをするようになりました。携帯電話で写真を撮ることで、まったく新しい行動様式とカルチャーが次々と生まれていきました。
「見た目」が変わりはじめたのです。
インターネットは世界的に見れば急速に普及したとはいえ、一般の人々の生活レベルに関していえば、段階を経ながら変化していったため、多くの人にとって受け入れやすかったのではないでしょうか。
しかも、受け入れることにネガティブな要素がほとんどありません。それまでに比べて便利になったし、楽しみが増え、クールなイメージもありました。
僕たちは、グレート・リセットを前向きに受け入れることができたのだと思います。
しかし、25年後の今回のリセットは、見た目がほとんど変わらないことに加えて、生命が脅かされ、多くの面で不自由になるなどネガティブな要素が多く、すんなり受け入れることができない変化でした。
また、一部を除き、自由と民主主義を掲げる国家ほどパンデミックの被害が大きかったのは象徴的だと思います。強権を発動できる国家ほど、感染をコントロールできた事実があり、世界は再び理念と理念が激しくぶつかり合う様相を呈しはじめています。
そんなミクロな現象からマクロな動向に至るまで、様々なレイヤーからパンデミック後の世界を見通すたびに、僕はどうしてもひとつの結論に達してしまうのです。
世界はもう、「元には戻らない」と。
グレート・リセットの時代の人生戦略「やめる」
パンデミックを経たいま、僕たちは、誰もが成功体験や失敗体験をまだ持たない状態へと完全にリセットされました。僕はこんな時代にこそ、「自分がこれからやることはなにもかもが新しい」ととらえていいのだと思います。
正解のない時代においては、なにをどのようなかたちでやったとしても、すべてがあなたの新体験。いわば"やったもの勝ち"の時代になっているのです。
僕は2020年8月まで、日本マイクロソフトに勤めていたビジネスパーソンでした。1997年に入社しましたから、23年にわたり所属したことになります。
そんな長年勤めていたマイクロソフト社をやめると伝えたとき、多くの知人から、
「このパンデミックの時期にやめるんですか?」
「え、もったいないよ!」
などと、とても驚かれました。先が見えない状況のなかでわざわざ会社をやめるのは、どう考えてもリスキーな行動に映ったようです。
でも、まさにそのパンデミックによって、以前からの連続性がなくなったことが見事に証明されているのです。