異質に価値あり 人材・考えの多様化がリスク分散に
マネックスグループ社長 松本大氏(7)
女性や若者、障害者、LGBT(性的少数者)などいわゆるマイノリティー(少数派)と言われる人たちも「自分はマイノリティーなのだから、話を聞いてもらえるはずがない」と最初から諦めたり、身を縮めて過ごしたりするのではなく、逆に「マイノリティーであることをアドバンテージ(優位性)にするのだ」というぐらいの気持ちでいた方がいいと思います。声を上げたり行動を起こしたりすることで、嫌な思いをするかもしれませんが、まずは周囲に「おっ」と認識してもらうことが自分にとって不利な環境を変える第一歩になるはずです。
属性情報を脇に置く 偏見も受け入れやすく
では、次に組織の視点からダイバーシティーを考えてみましょう。最近は多くの企業がダイバーシティーの推進を掲げています。異質な人がメンバーにいた方が思いがけないアイデアが出てくる可能性が高いので、組織にとっては絶対に得策です。それに、異質な人がいることはリスクヘッジにもなります。極端な例ですが、体制側から見て180度違う意見を持つ人は「反乱分子」かもしれませんが、もしかすると同質的な集団が間違った方向に流れようとするのを食い止めてくれる「救世主」かもしれないのです。

「マイノリティーであることをアドバンテージに」と話す
組織の中に異質な人を取り込んでおくリスクとリターンって、実は投資の世界と同じなのです。マーケットではノーベル経済学賞を受賞した米国人学者による「モダンポートフォリオ理論」が有名です。多様な資産を持った方が全体のリターンは同じでも、リスクを減らせるという話です。ごくごく単純化すると、Aという資産とBという資産に分散投資すると、リターンはAとBの期待収益率の和になるけれども、リスクはAとBが相互に打ち消し合うので、「AマイナスB」もしくは「BマイナスA」の絶対値となり、最小でゼロになるのです。組織でも多様な構成メンバーがいるほどリターンは足し算となり、反対にリスクを下げられる。それはもう数学的にも正しさが証明されているのです。
ただし、理論的にはそうだとしても、感情的にはなかなか受け入れ難いこともありますよね。そんな時、どう考えればいいのか。再びゴールドマン・サックス時代のケースをお話ししましょう。
日本人メンバーのAさんは同僚の米国人(ここでは仮にグレッグさんとします)を快く思っていませんでした。「グレッグは締め切りを守らないし、注意しても反省しない。日本のことも全然分からずに勝手なことばかり言って……」。ブツブツと不満を並べているAさんに、私は言いました。「主語をグレッグじゃなくて、田中さんにしてみたらどうですか?」「え? 田中さんは締め切りを守らないし、注意しても反省しないし……。そうか、確かに日本人でもそういう人はいますね」。Aさんは苦笑いしていました。
逆に、日本人の同僚でも「言っていることがめちゃくちゃだ。頭にくる」という人がいれば、その人を外国人風の誰かの名前に置き換えてみればいいのです。相手を属性と結びつけると、「○○だからこうなのだ」というバイアス(偏見)が働いてしまいます。そうではなく、主語を入れ替えることで一旦その属性の情報を脇に置いてみる。すると案外、受け入れられるものです。