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引きこもり状態で2年が過ぎ、このままでいいのかと焦り出したとき、早大の掲示板にあったビラが目に入った。

たまたまキャンパスに行った際に、「第2回日中学生会議 参加者募集 渡航費無料」と書かれているビラが目に止まりました。引きこもり生活にも辟易(へきえき)していたので、海外にタダで行けるのなら応募してみようと思ったのです。ところがその会議とやらに行ってみると「今から全員で、寄付金集めの営業に行こう」というのでびっくりしました。実はタダで行けるのではなく、寄付を集めることでタダにするのだという話で、しかも初回は3人のメンバーがほぼ遊びに行っただけで、第2回が実質初回でした。話が違うと思いましたが、仕方がないので僕も寄付をしてくれる企業や団体を手当たり次第に探しました。でも当然のことながら、どこからも相手にされません。

「海外にタダで行けるなら…、そんな軽い気持ちで参加した日中学生会議で人生を変えた2つの出会いがあった」と振り返る

「海外にタダで行けるなら…、そんな軽い気持ちで参加した日中学生会議で人生を変えた2つの出会いがあった」と振り返る

ところがある日、青山学院大学のある学生が、300万円を10年分出してもらう契約を財閥系の財団から取り付けてきたというニュースが飛び込んできました。喝采を受ける彼を見て、僕はいままでの自分がいかに間違っていたかを思い知りました。それまでの僕は「俺はコイツより頭がいい」とかそんなことで自分のちっぽけなプライドを満足させている、実に感じの悪いヤツだったのです。偏差値で人を判断するなんて、今思えば最低最悪ですが。でもそのとき、彼のようにきちんと自分の思いを人に伝えて、信頼を得て、応援してもらえるほうがずっと価値があることなのだと気づいたのです。

彼のおかげで実現にこぎ着けた日中学生会議では、これまた僕の人生に決定的な影響を与えることになる先生と出会いました。清華大学で数学を教えていたその先生は、いきなり日本からやってきた学生のために1時間半、対話の時間を作ってくれました。話をしているうちに、その先生が数学専門なのにゴリラみたいに屈強な体つきをしているのが気になり、ふと「なぜ先生はそんなに立派な体格なのですか」と質問しました。すると先生は自身の壮絶な過去を語り始めました。

若かりし頃、先生はものすごく優秀で国際数学オリンピックでメダルを取った。ところが時は文化大革命の時代。中国共産党から「西欧思想にかぶれている」と目をつけられて新疆ウイグル自治区に強制連行され、10年間、ひたすら開墾の強制労働をさせられた。だから昔はきゃしゃな体つきだったけれど、筋肉隆々になったのだ――。先生の話に僕は言葉を失いました。こんな不条理が世の中にあるのかと。同時に、絶対行けると思っていた東大の受験に失敗し、「人生は不条理だ」なんて卑屈になっていた自分が恥ずかしくなりました。

先生は自身の辛い体験を語りながらも終始ニコニコしていました。不思議だったので最後に「どうして先生は、そんなにニコニコしているのですか」と聞いたら、その答えがさらに衝撃的でした。

「僕は幸せなんだ。なぜなら君たちが会いに来てくれたからさ」

それを聞いた瞬間、僕は雷に打たれたようでした。人より頭がいいとか能力があるとかお金を持っていることが幸せだと思っていたけれど「あなたと会えたから幸せだ」と言える人のほうが、ずっとずっと人間としてのレベルが高い。自分の目指すべき人生はそっちだろうと。あまりの衝撃のせいか、この先生の名前をメモしてこなかったことが残念でなりませんが、先生の一言が僕の人生観、人間観を決定づけたことは間違いありません。

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