変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

贈与の受け取り手は「お返しをしたくてもできない」という負い目を感じるが、その負い目は他の誰かに手渡す=贈与することによってのみ解消する。実はこの世は先人たちが積み上げてきた無数の贈与で成り立っている。そのことに気づくことが教養であり、贈与の存在を自覚した者は、自身も見知らぬ誰かに贈与のパスをつないでいこうとする。その使命感こそが「仕事のやりがい」や「生きる意味」につながっていく――。

「贈与」と対比されるのが資本主義社会のベースとなっている「交換」だ。市場経済においては商品・サービスはお金を介して交換される。ビジネスでよく使われる「ギブアンドテイク」や「ウィンウィン」という言葉の裏にも「助けてあげる。で、あなたは私に何をしてくれるの?」という交換の論理がある。NRIの八木さんは就活でも交換の論理が見え隠れするという。

会社選びの軸を考え直すヒントにも

「『贈与』という別の視点でもう一度、会社選びの軸について考え直してみてはどうでしょうか」と話す八木さん

「『贈与』という別の視点でもう一度、会社選びの軸について考え直してみてはどうでしょうか」と話す八木さん

「学生さんからは、この会社で働くと『どう成長できるか』とか『どういうスキルが得られるのか』という質問をよく受けます。就活も、労働に対する対価として何が得られるのかという交換の文脈で語られがちです。でも交換という論理を持ち出した瞬間に、同等の給料や成長・スキルを得られる仕事は他にもあるわけですから『代替可能性』が高まってしまう。つまり、なぜこの会社でなければいけないのかが見えてこないんです。だったら『贈与』という別の視点でもう一度、会社選びの軸について考え直してみてはどうでしょうか」

就活でよく聞く言葉だが、「軸」とは改めて何なのだろうか? 八木さんは、「自分にとって大事なことは何なのか」「どういうことを成し遂げたいのか」「社会に対してどう関わっていきたいのか」だという。

「自分が求めているのは、自己成長なのか、他者に喜んでもらうことなのか。『スゴイことを成し遂げて自分が直接社会にインパクトを与えたい』とか『自分の名前がメディアに取り上げられることで自尊心を満たしたい』とか、そういう自分にベクトルが向いた考え方も全く悪いことではありません。ただ、もしそちらを志向するのなら、コンサルより事業会社のほうがよりダイレクトにやりがいを感じられると思います。私たちコンサルの仕事はあくまでクライアントの課題解決です。先方の事業がうまくいったからといって、自分たちの名前が表に出ることはあまりありません。目に見えるプロダクトがあるわけでもなく、シンプルな対価が得づらい仕事なのです。でも違う観点でのやりがいは大いにあります。そこに納得できる人だったらコンサルは向いているかもしれません」

NRIは官公庁や産業界のトップ企業を多く顧客に持ち、創業時からのシンクタンク機能も強い。国家や産業のあるべき姿や未来図を描き、リポートや本という形で世に問うていく仕事も多い。八木さん自身、昨年出版された『デジタル国富論』では、NRIデジタルエコノミー研究チームの一員として入社4年目にして執筆を担当した。提唱したのはGDP(国内総生産)など従来の枠組みでは捉えきれない「消費者余剰(精神的充足度のようなもの)」まで加味した「GDP+i(アイ)」という新しい経済指標だ。

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