野村総研が推す哲学書 生きる意味・会社選び問い直す
「本を書くことによる即時的なわかりやすい効果やインパクトはそれほどないでしょう。でもどこかの誰かの『ものの見方』が変化して、その積み重ねで社会が違う方向に動き出すかもしれない。そこに可能性とやりがいを感じるのです」
八木さんが『世界は贈与でできている』の本の中で特に印象深かったのは「世界に出会い直すことで、僕らには実に多くのものが与えられていたことに気づくのです」というフレーズだ。
「いろいろな人が生み出した無数のプロダクトやイノベーションや行動の結果としてこの世界があるということ再認識すると、私自身も未来のために役立ちたいという気持ちになります。コンサルティングを通じて、新しい事業やサービス、プロダクトもしくは考え方や理念を、未来を担う誰かに渡していくというのも『贈与』に近いのかなと思います.コンサルタントは特定のプロダクトやサービスにとらわれずに仕事ができるからこそ、さまざまな領域・立場で未来創りに貢献できます。それが私の考える事業会社にないコンサルタントのやりがいです」

「自分はどこに課題を感じていているのか。それは自分のどんな経験に根ざす問題意識なのか。具体的にはどんな貢献の仕方をしたいのか。丁寧にブレークダウンしてみてほしい」と漆谷さんはいう
八木さんと同期で、同じく経営戦略コンサルティング部門の採用を担当する漆谷真帆さんはこう話す。
「最近『社会に貢献したい』とか『SDGsの実現に貢献したい』と話す学生さんがすごく多い。ただ、ちょっとバズワード(流行語)化していて、あまり深く考えずに言っている人もいるのかなと。そもそも社会に全く貢献していない会社は存続できませんし、社会に貢献する方法はいろいろあります。自分はどこに課題を感じていているのか。それは自分のどんな経験に根ざす問題意識なのか。具体的にはどんな貢献の仕方をしたいのか。丁寧にブレークダウンしてみてほしい。『贈与』という視点が好きか嫌いかは別として、自分のやりたいことや『貢献したい』という言葉の裏にある本当の気持ちを深堀りする道具立てにはなると思います」
入社後も問われ続ける「あなたは何をしたいのか」
八木さん、漆谷さんによれば、NRIでは入社後も「あなたは何をしたいのか」をずっと問われ続けるのだという。半期に一度のマネジャーとの面談だけでなく、日常会話の中でも、どのプロジェクトに入りたいのか、担当する企業や業界のあるべき未来像をどう描いているかを常に問われる。
「そういう対話の積み重ねがあるからこそ、当社には特定の分野のエキスパートが多い。NRIが離職率が低く長く働く人が多いのも、そのあたりに理由があるのだと思います。自分なりの課題意識や「社会をこうしていきたい」という思いを持っている方に来てほしいですし、私たちも中長期的スパンで人材育成をしていきたいと思っています」
八木さんからは最後に一言。
「この本を絶対読んでという気は毛頭ありません。学生さんの悩みに応じて、お薦めする本は他にもあります。『贈与』と同じで押しつけると意味がなくなりますから。いつか、どこかでヒントになればなあという感じです。働き始めてから読むとまた違った捉え方ができるかもしれませんね」
(ライター 石臥薫子)