スポーツノンフィクション10選 評伝・名将・駆け引き
人間性があらわに 埋もれた好著再び
佐藤次郎というテニスの名選手がいた。1930年代に四大大会のシングルスで幾度もベスト4に進出。その偉業は近年、松岡修造や錦織圭の躍進に際して再注目された。だが佐藤は絶頂期に謎の投身自殺を遂げる。直木賞作家の深田祐介は85年に彼の生涯を「さらば麗(うるわ)しきウィンブルドン」に描いた。本書は今、入手が難しい状況にある。
「スポーツは歴史である」(松瀬さん)。体力と知力を尽くす営みは人間性をあらわにし、時代と社会の空気を映す。歴史観をもって現代のアスリートの活躍に接すれば、スポーツ文化への理解も一段と深まるだろう。2度目の東京五輪開催は、スポーツノンフィクションの価値を再認識する良い機会だ。笹川スポーツ財団評議員である佐藤さんはパラリンピック関連本の充実を期待する。
ランク外にも後藤正治、海老沢泰久、後藤健生、中村計など往年・気鋭の作家の良書は多く、女性作家も台頭している。一方で埋もれた好著も少なくない。電子書籍化をはじめ、多様な作品がより手軽に閲読できる環境の整備を進めてほしい。
ランキングの見方
作品名、著者名。数字は専門家の評価を点数化。(1)審査の対象とした単行本または文庫・新書の出版社(2)刊行年(3)税込み価格。★は電子書籍あり。写真は輪島功一スポーツジム(東京・杉並)、立正館 高木道場(同)、船橋市運動公園(ふなロケ)の協力で鈴木健撮影。調査の方法
紙の書籍が比較的入手しやすい日本のスポーツノンフィクションのなかから、スポーツライターの藤島大さん、秩父宮記念スポーツ博物館・図書館らの協力を得て22作品を選出。スポーツジャーナリストや書店員ら専門家が「取材の緻密さや筆力」「視点の独自性」「記録的価値」などの観点から審査し、1~10位まで順位付け。編集部で集計した。今週の専門家
▽青島健太(スポーツライター)▽内田俊明(八重洲ブックセンター営業部マネジャー)▽太田千亜美(代官山蔦屋書店 旅行・ノンフィクションコンシェルジュ)▽大森伸吾(リブロプラス BOOK PARK miyokka !?イオンタウン四日市泊店店長)▽河野通和(ほぼ日の学校長・ミズノスポーツライター賞選考委員長)▽幸脇啓子(nippon.com書評委員)▽佐藤次郎(スポーツジャーナリスト)▽藤村結香(宮脇書店 実用書担当)▽松瀬学(スポーツジャーナリスト・日本体育大教授)▽山本寿子(ジュンク堂書店池袋本店 実用書担当)=敬称略、五十音順(名出晃)
[NIKKEIプラス1 2021年8月21日付]