物足りなかった五輪アナの表現力 解説者に負けた理由
新鮮に感じた、解説者の表現力
だが、そうした同情すべき事情を考慮に入れても、今回の実況・アナウンスには物足りない思いが募った。ざっくりした印象を述べれば、「見たまんまをしゃべっている」という感じだ。目の前の出来事やプレー・演技を「文字起こし」しているようなイメージだ。
視聴者は必ずしもその競技に詳しいわけではないのだから、見どころや面白がり方を言葉で補ってほしかった。テレビで見ている映像を、視聴者が立体的に受け止めるのに役立つ読み解き情報が求められていただろう。しかし、知見の深さにうならされるようなくだりは、あまり耳にする機会がなかったように思える。
解説者との役割分担がアナウンサーの立ち回りを難しくしたきらいもあるだろう。せっかく専門家を招いているのだから、自分は競技内容に踏み込んだ物言いを避けるべきだという「自粛」の意識が働いた可能性はある。
しかし、そもそも担当した競技に関する理解は十分だったのか。もっと言えば、スポーツ愛はあったのか。まるで台本に従うかのような、通りいっぺんの進行ぶりには、時にそんな疑問も抱かされた。
一方、解説者のほうはいろいろと話題を集めた。最も関心が高かったのは、「ゴン攻め」の流行語を生んだ、プロスケートボーダー・瀬尻稜氏だろう。「鬼ヤバい」「ビッタビタ」など、気取らない「普段使い」の表現で、この競技にふさわしいムードを印象づけてくれた。標準的な物言いの「大胆なトリックです」「限界まで技を繰り出しています」では伝わりにくい空気感が視聴者の共感を呼び込んだ。
女子マラソンで解説者を務めた、スポーツジャーナリストの増田明美氏は以前から情報量の多いしゃべりで知られる。今回も各選手の人となりまで盛り込んだ解説で実況に厚みを持たせた。
プライベートな事情まで明かした点では批判を浴びた。しかし、念入りな取材に裏打ちされた「小ネタ満載」の解説は、長い時間にわたる中継でも、視聴者を飽きさせなかった。もともと選手や競技への愛情がしっかりと感じられる語り口にファンが多い。アスリートの魅力を伝えたいという熱意が情報たっぷりの解説からもうかがえる。
アナウンサーはためらいがちな、感情があふれ出た言葉を発する解説者もいた。度が過ぎなければ、視聴者の気持ちを高ぶらせる働きがあり、冷静な進行に努める局アナとのめりはりが際立つ。競泳やソフトボールでは、選手たちを励ましたり、健闘に感謝したりする言葉が聞かれ、中継に情感を乗せた。さじ加減が難しいが、好感の持てる場面が少なくなかったように感じる。