仕事も家庭も欲張る「バリキャレーゼ」女性が増加中
「バリ」でも「ゆる」でもない

「管理職になったときに、仕事のできる人ほど自分で抱え込んで負担が大きくなりがちなのでご用心。部下を信頼して任せていかないと、定時退社できなくなりますよ」
5~7月、人材サービス会社のエン・ジャパンは自社の若い女性社員向けに全6回にわたる研修「これからのマネジメントアカデミー」を開いた。将来、子どもができてもキャリアを高めていきたい20代~30代前半の女性約15人が真剣にメモを取っていた。
たとえ子育ての時期を迎えて1日6時間勤務や定時退社をするようになっても補助的な仕事に回らず、時間内はバリバリ働く道を選ぶ。優雅な専業主婦の「シロガネーゼ」に対して、家庭生活と仕事のどちらも満喫しようとする彼女たちを「バリキャレーゼ」と呼んでみよう。
天敵の残業、回避
同社はバリキャレーゼの育成と活用を進める。2013年、それまで子どもができて1日6時間勤務を利用すると大幅に給与が減る仕組みだったのを改め、仕事実績に応じて均等にもらえる給与体系にした。今年始まった研修は、少しでも賢く家庭生活と両立させて思いきり働けるように後押しするプログラムだ。
研修に参加した遠藤春菜さん(29)は「働き続けて物心両面で豊かになれるといい。積極的に管理職にも挑戦したい」と話す。入社3年目の松尾光さん(24)も「家庭を持って管理職をやれるのか不安だが、研修に参加し、様々な能力を学んでいけばできる気がしてきた」と意欲を示す。
人材会社ビースタイル(東京都新宿区)の三原邦彦社長は「今の20代から30代前半の女性は結婚・出産しても辞めなくなった。女性がゆるく働くばかりでは会社がもたない。会社側も女性がバリバリ働くことを期待している」と話す。三原社長はバリキャレーゼが女性の主要な生き方になるとみて4月、彼女たちを主対象に教育・転職サービスを手がける子会社「Shift(シフト)」を設立。同社がエン・ジャパンの研修を提案した。

管理職を目指す若い女性社員向けにエン・ジャパンが開いた研修(7月、東京都新宿区)
小回りの利く職場では、バリキャレーゼが働きやすいよう工夫する。化粧品販売のランクアップ(東京都中央区)は基本、残業がゼロ。仕事が終わった社員は定時の午後5時半を待たず、5時に帰宅できる。社員43人のうち半数以上を占める働く母親は負い目を感じずに責任ある仕事をこなす。会社設立以来、9年連続の増収を果たしている。
社長の岩崎裕美子さん(47)は長年、広告代理店で仕事漬けになり、実績を上げたものの「肌はボロボロ。このままではまずい」と36歳で退職した。起業後に結婚・出産したが、「社長の私一人が先に帰る毎日。私なんかいない方がいいと悩んだ」。この経験から、天敵の残業をなくそうと誓った。
■考える作業、専念
社員からカイゼン提案を募り、例えば子どもが病気になったときに利用できる病児ベビーシッター制度を設けた。社員の負担は1回300円で何度でも使える。一方、仕事の効率を極限まで高めるため、同社で付随的な業務とみなす経理、配送などは外部に委託。社員は原則、「考える仕事」に専念できる。会議は30分以内。きれいすぎる資料の作成に時間を費やすのはご法度にしている。
ただ、多くの職場は仕事の効率を高めることができず、残業がつきまとう。そんな中、バリキャレーゼたちが伸び伸び働ける環境が浸透するには、どんな視点が必要か。
女性活用に詳しいリクルートマネジメントソリューションズ(東京都千代田区)マネジャーの荒川陽子さんは、「上司などの周りの人たちと上手にコミュニケーションをとり、環境をつくっていくことが大事」と話す。
ヒナが卵からふ化するときに、親鳥も外側からつついて促す「啐啄(そったく)同時」が望ましいといわれるように、職場で新しい仕事の仕方を切り開くには、周りの理解と支援が欠かせない。長時間労働で評価せず、成果で測る機運は高まり、女性活用の流れが強まっている。目の前の仕事に打ち込みながら、この流れを呼び込めるように実績を重ねていきたい。(平田浩司)