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ただし、デメリットもあります。それは、ご自身が負担する社会保険料が高額になってしまうということです。たとえば、標準報酬月額が30万円の場合、健康保険料は1万7460円(介護保険含む。以下同じ)、厚生年金保険料は2万7450円です。ところが、テレワーク移住などで固定的賃金に該当する通勤手当が増え、標準報酬月額が41万円になった場合、健康保険料は2万3862円、厚生年金保険料は3万7515円に高まり、合わせて約1万6500円も毎月の負担が増えます。

一方、テレワークの普及に伴い、あなたのお勤め先が通勤手当の支給方法を月額から日額単位に変更したとしましょう。この場合、社会保険料の算定時に支払われていた同程度の通勤手当が毎月発生しているなら問題はありません。けれども、実費精算になってから在宅勤務続きで全く通勤がなかった場合は、給与の手取り額自体が大きく減ってしまいます。この点も注意しておきましょう。

なお、先ほど1ページ目でお伝えしたように、社会保険料を決める標準報酬月額は9月から1年間は基本的に変わりません。従って、通勤手当は日額単位で支給されるという方で「4月から6月は出社が続いたけれど、その後は在宅勤務と半々だ」など在宅勤務比率が高まった方の場合、ご自身の社会保険料の負担は通勤手当が高かった4月から6月の水準で推移していく可能性もあり注意が必要です。

ちなみに健康保険・介護保険における標準報酬月額の上限は139万円、厚生年金保険においては65万円となっています。働く場所が自由に選べるようになって移住した方で、新幹線通勤などにより「通勤手当」が従来より増えた場合、これらの保険料の負担も標準報酬月額の上限に達するまでは増加します。社会保険は従業員ばかりでなく、被保険者となっている役員も対象になります。

雇用保険のメリット・デメリット

社会保険に比べると注目度は低いかもしれませんが、実は通勤手当は雇用保険にも影響しています。テレワーク移住などで「通勤手当」が従来より増えた方の場合、雇用保険における影響、特にメリットは大きいと言えます。

雇用保険には「育児休業給付金」や「介護休業給付金」、「失業手当」(正式名称は「基本手当」といいます)といった様々な給付制度があります。給付額は、基本的に6カ月の平均給与をもとに計算されますが、この給与には通勤手当の金額も含まれます。

たとえば、育児休業給付金の場合、休業前6カ月間の平均給与が月額30万円の場合は、1カ月あたり約20万1000円となりますが、同期間の平均給与が40万円の場合は約26万7900円となり約6万7000円も増額となります(それぞれ給付率が67%の場合)。育児休業は保育所に入所できない場合など、最長で2歳まで延長できるため、育休期間が長くなればなるほど、そのインパクトは大きいと言えます。ただし、育児休業給付金には上限額(支給率が67%のとき、30万1902円)があります。この上限額は、毎年8月1日に見直されます。

一方、通勤手当が増額すれば、それに伴い雇用保険料の額も増えます。ただし、社会保険と比べると保険料率が低く、10万円給与が上がっても、増える雇用保険料はわずか300円です。22年10月以降は雇用保険料が改定される見込みですが、それでも500円の増額に過ぎません(いずれも一般の事業の場合)。受けられるメリットと比べ、デメリットは少ないと考えられます。

多様化する働き方にテレワーク移住も

社会保険および雇用保険に関する側面から、通勤手当が上がることに伴う意外な盲点について取り上げてみました。しかし、テレワーク移住の良さは、そうした面ばかりではありません。

若者の地方移住を推進・支援している市町村は全国でたくさんあります。たとえば、空き家をリノベーションして安く貸し出したり、お試し移住の制度を設けていたり実に様々な支援策があります。都心と比べると住居や食費などの生活コストも低く抑えられますし、広い住居・仕事スペースも確保しやすくなります。一方で、教育問題や地元住民とのコミュニケーションなど課題もそれぞれあることでしょう。

しかし、テレワークによって生活と仕事の場所における選択肢が増えることは好ましい変化ではないでしょうか。これまでのように、会社ありきで住む場所や生活スタイルが決められてしまうことが、むしろ不自然だったと思える日がそう遠くない未来に訪れるかもしれません。

佐佐木由美子
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。グレース・パートナーズ株式会社代表。人事労務・社会保険面から経営を支援。多様で柔軟な働き方の雇用環境整備や女性の雇用問題に積極的に取り組んでいる。働き方やキャリア、社会保障などをテーマに多数執筆。

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