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切れ間なく働くテレワークでも問題に

勤務間インターバルを巡る動きは民間企業に限ったことではありません。人事院でも今年から開始された国家公務員の働き方改革に関する研究会において、勤務間インターバルの導入について検討を始めています。このように、国内では近年、勤務間インターバル制度が各方面で取り上げられていますが、なぜでしょうか。

そもそも、残業が少なく十分に休息が取れていれば、あえて制度化する必要性は感じられないものでしょう。所定労働時間が9時から18時までの会社で、残業があってもせいぜい21時までのような場合、インターバルは12時間取れています。しかし、業種によっては、交代制勤務において勤務間隔の短いシフトで勤務しているケースもあれば、人手不足によって多くの残業が発生し、過重労働に陥っている現場もあります。医療従事者や物流・運送関係、保育などのエッセンシャルワーカーは、コロナ禍において特に負荷が大きかったと言えます。

日本医療労働組合連合会の「2021年度夜勤実態調査」では、夜勤に従事する看護職員の過酷な状況が明らかとなりました。ILO(国際労働機関)の「看護職員の雇用と労働および生活条件に関する勧告(第157号)」では、少なくとも連続12時間以上の休息期間を設けることを定めていますが、調査によるとインターバル時間が「12時間未満」が53.3%です。インターバルが極端に短い「8時間未満」だけでも全体の41.7%にものぼります。

コロナ禍による労働環境の悪化は一般のビジネスパーソンにも見受けられます。テレワークの普及によって働く場所や時間が自由になった分、生活と仕事の境界が曖昧になってしまったからです。テレワーク自体には「通勤ラッシュの回避」などプラス面もあるものの、「途切れなく働いてしまうことで長時間労働になってしまう」「十分な休息が取れない」といった問題も指摘されています。このように、コロナ禍による働き方の変化で、勤務間インターバルの必要性が顕在化したといえるでしょう。

勤務間インターバルの利点 休息時間を十分取れるように

勤務間インターバルのメリットとしては、働く人にとっては睡眠時間などの休息時間を十分に取れることによる健康維持や、生活時間の確保によるワークライフバランスの実現が挙げられます。企業側においては、働き過ぎを防ぎながら多様で柔軟な働き方を目指すことにより、魅力ある職場づくりができると共に、人材の確保・定着や離職者の減少、利益率や生産性を高める可能性が期待できます。疲れがたまった状態で、長く働いたとしても生産性は上がらない、というのはみなさんが実感しているところではないでしょうか。

睡眠時間の確保がいかに有益であるか、様々な研究からも見てとれます。厚生労働省が18年12月にまとめた「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」報告書で紹介されている事例によると、例えば、ノルウェーの看護師を対象とした横断研究では、シフト間隔が11時間未満となる回数が多くなるにつれて、不眠、強い眠気、過労の訴えが増加することが示されています。また、米国における研究では、睡眠時間が6時間未満の者では、7時間の者と比べて、居眠り運転の頻度が高いことが示されています。睡眠は長ければよいというものではなく、睡眠の質も非常に重要です。

睡眠時間の長さは経済協力開発機構(OECD)の21年版調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟国のうち最下位。全体平均の8時間24分とほぼ1時間の差がありますが、ビジネスパーソンはもっと短いのではないでしょうか。厚生労働省が20年に公表したデータでも、20代以上で6時間未満の睡眠だった人が39%でした。米国のシンクタンクによると、日本の睡眠不足が引き起こす経済損失は年間15兆円に上ると言われています。

確保するインターバル時間 企業各社が工夫

インターバルの時間数はどの程度にすべきか、という点において、法律上の規定は特にありません。就労条件総合調査では、導入企業の平均間隔時間が10時間57分となっています。厚生労働省によれば、確保するインターバル時間は8時間から12時間としており、各企業の工夫に委ねる形を取っています。

ユニ・チャームは、17年1月に勤務間インターバル制度を導入。導入に当たっては、半年から1年近くの時間をかけて労使間で協議を重ねたそうで、最低8時間以上、努力義務として10時間というインターバル時間を規定しています。

また、エステ店大手のTBCグループ(東京・新宿)は、子会社・関連企業等も含め、全社員を対象に17年1月から勤務間インターバル制度を導入しています。就業規則の一部として明記し、対外的には、エステ・ユニオンという労働組合と「勤務間インターバル労働協約」を締結。インターバル時間については、義務規定として9時間、健康管理指標として11時間(月11日以上)を定めています。同社は女性スタッフが9割を占めており、働きやすい職場をアピールし、人材確保につなげたいとの狙いもあります。

勤務間インターバル制度は、時間への意識を高め、生産性の向上にもつながります。労務面においては、明確な労働時間管理が求められますが、勤怠システムも日々進化しています。

導入に際しては、企業の掛け声だけではなく、長時間労働をさせない管理職のマネジメントも重要と言えるでしょう。

佐佐木由美子
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。グレース・パートナーズ株式会社代表。人事労務・社会保険面から経営を支援。多様で柔軟な働き方の雇用環境整備や女性の雇用問題に積極的に取り組んでいる。働き方やキャリア、社会保障などをテーマに多数執筆。

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