大手監査法人初の女性トップ 変革へ、少数派を強みに
EY新日本監査法人 片倉正美理事長(上)
私のリーダー論EY新日本監査法人の片倉正美理事長(53)は監査のデジタル化を推進している。非効率な旧来型の仕組みを見直し、顧客ニーズに応える狙いだ。2019年に理事長に就いたとき、大手監査法人では初の女性トップで、年齢も通例より若かった。少数派がトップになることは固定観念を打破し、「変革を進めるための武器になる」と語る。
――昔から「リーダー気質」だったのでしょうか。
「家庭では小さいころから『やりたいことはやっていい。ただし責任はとりなさい』と自立することを教えられました。周りからは強い人と思われていたようで、よく学級委員などの声がかかりました。落選しましたが小学校6年生の時は生徒会長に立候補しました。大学4年生の時はミクロ経済を学ぶ経済原論のゼミで、ゼミ長をやりました」
「でも監査法人のトップになるとは正直思っていなかったです。業界の慣習として『五十代後半の男性がなるもの』という思い込みがありました。理事長選挙で投票権を持つパートナー職も9割は男性です。女性は選ばれないだろう、自分とは関係のない世界だと思っていました」
――理事長に立候補したきっかけは何だったのですか。
「危機感です。辻幸一前理事長の下で企画本部長を務めていたとき、今後10~20年の監査に思いを巡らせました。会計不正をもっと早く発見してほしい、非財務情報も保証を付けてほしいなど、監査に対するニーズは拡大する一方です。しかし担い手となる会計士の数は限られています。今のようにマンパワーに頼った労働集約的なやり方では生き残れない。デジタル化が不可欠だ。そう思いました」
「変革には抵抗がつきものです。デジタルといってもデータを集められるのか、システムでどう扱うのか、デジタルツールにどう習熟するのか、会計士以外に業務を任せていいのか――などです。女性で年齢的にも若い自分がトップに立つということは固定観念を取り払い、変革を進める際の武器になると考えました。4年の任期を終えても定年の62歳まではまだ先。改革の結果に責任を持てると伝えられます」

EY新日本監査法人理事長 片倉正美氏
――立候補に至るまでにメンターからも大きな影響を受けたそうですね。
「EY新日本など日本のEYメンバーを束ねるEYジャパンの元会長、スコット・ハリデーです。事あるごとに『君はもっと上を目指すべきだ』『リーダーに向いているよ』と言われました。理事長など縁遠いと思っていた当初は『はいはい』と半身で聞いていました。でも毎日声をかけられることで、徐々にすり込まれていきました。スコットは『リーダーとは皆をポジティブにできる人』と言い切りました」