商工組合中央金庫社長・関根正裕氏 現場への敬意、再生のカギ
商工組合中央金庫 関根正裕社長(上)
私のリーダー論
商工組合中央金庫社長 関根正裕氏
公的融資制度を巡る組織的不正が発覚し、2018年に政府から「解体的出直し」を言い渡された商工組合中央金庫(商工中金)。同年に就任した関根正裕社長(66)は西武ホールディングス(HD)などで組織改革の現場に関わってきた。改革期のリーダーに必要なのは「現場へのリスペクト(敬意)」だと説く。
――商工中金では17年、危機対応融資と呼ぶ業務を巡り、全100営業店のうち97店が不正していたことが明らかになりました。原因はどこにあったのでしょうか。
「一言でいえば組織風土です。全体的に風通しが悪く、現場の職員は上層部の言いなりでした。職員側も現場の状況を上層部に伝えていませんでした。現場の職員は予算を消化し、業績を上げなければという思いが強いあまり、取引先企業の書類を書き換えて金利の低い融資の対象となるようにしていました」
「職員は皆真面目で、不正で私腹を肥やそうとした人は一人もいませんでした。マネジメント(組織運営)の失敗で全体が間違った方向に進んでしまったのです。組織風土さえ変えることができれば、現場の能力は高いので十分再生できると考えていました」
――就任以降、どのようなことに取り組みましたか。
「営業ノルマを廃止し、各支店で自主的に営業計画を作るよう指示しました。計画づくりには営業店の全ての職員が参加するよう求めました。作業を通じて全職員が当事者意識を持ち、ボトムアップ型の組織に変わってもらう狙いがありました。商工中金の支店は全国にあり、地域によって集積する産業や市場規模は異なります。営業計画も本部ではなく、地域をよく知る支店が作った方が良いものになるという考えもありました」
――支店長らの反応はどうでしたか。
「最初は大きな反発がありました。それまで本部の指示に従うだけだったので、何をすればいいか分からないという声が多かったです。計画を作るのは本部の仕事であり、職務放棄ではないかとの批判も浴びました」
「支店長会議で業績の話を一切しないようにしました。支店長たちにマネジメントを楽しむように言いました。人を動かすのは難しいけれど、うまくいけば面白いように結果が出るから、それまで頑張るよう言い聞かせました」
――現場の職員らの反応はどうでしたか。
「職員たちの方が変化は早かったです。計画を作るには、取引先企業のニーズに向き合う必要があります。その過程で中小企業の役に立つことが本来の役割だという自覚を取り戻し、現場に活気が出てきました。私の方も、本来の役割以外のことはやらなくていいと宣言し、保険や投資信託の窓口販売はやめました」