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人を動かし結果に責任

「ただ、選ばれた以上、任期の3年は所長としての責務を全うしようと思いました。自分がいなくても、研究室がちゃんと回るように助教授に権限を移して、事務サポートをする人も増やしました。研究所の所長が研究室のリーダーと違うのは、束ねている相手は教授陣で、先輩もいます。良い経験になりました」

――所長の経験は次のキャリアに生かせましたか?

「52歳で研究に戻ってみると、3年間のブランクは大きくて苦労しました。一方でその頃、多くの若手研究者を束ねて年間3億円の予算を使えるJSTの戦略的創造研究推進事業(ERATO)というプログラムの研究総括を担う機会に恵まれました」

「この中で、『橋本光エネルギー変換システムプロジェクト』を約5年間続けました。様々な分野の若手研究者を集めて微生物発電、人工光合成、有機薄膜太陽電池など自分にとって新しい分野に挑戦しました。プロジェクトのマネジメントが仕事の中心であったのですが、手応えを感じました。NIMSの理事長も規模は違えど、研究者を動かすという役割では同じでした。これまでのリーダーとしての経験が役立ちました」

――ご自身にとって、リーダーの極意とは。

「決断をして仕事を部下に任せる。しかし、結果には自分が責任を持つ。それがリーダーです。物事を前向きにとらえ、他人の立場に立ち物事を考えることも、とても重要です」

(福岡幸太郎)

◇  ◇  ◇

休憩時の散歩で息抜き

新型コロナウイルス流行下、「職員は在宅でもトップはなるべく現場にいるべきだ」と物質・材料研究機構(NIMS)理事長時代は自宅のある横浜市からつくば市の本部にできる限り通った。同市は自然が豊かなのが魅力で、昼の休憩時の散歩が息抜きとなった。

JSTの東京本部がある東京都千代田区は「都心なりの面白さがあった」。緑が多い皇居近くの千鳥ケ淵や靖国神社などを通り、約3キロメートルを30分で歩く。都心に息づく歴史をかみしめている。

はしもと・かずひと 1955年北海道生まれ。85年東大で博士号取得。東大教授、同大先端科学技術研究センター所長などを経て、2016年に物質・材料研究機構(NIMS)理事長、22年4月から現職。政府の産業競争力会議や総合科学技術・イノベーション会議の民間議員も務め、政官財に幅広い人脈を持つ。有害物質などを光で分解する光触媒の研究で国際的に知られ、国の大型研究プロジェクトを率いたほか、企業との共同研究にも実績がある。

リーダーを目指すあなたへ


 リーダーは明るい方がいいと学生によく言っています。私は生まれつき明るいわけではなく意図的に振る舞ってきました。自分の得意な点、不得意な点をしっかり見極め、得意な事で勝負することを心がけてください。
[日本経済新聞夕刊 2022年9月8日付]

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