社会人野球ENEOS・大久保監督 勝てるリーダーの秘訣
社会人野球ENEOS 大久保秀昭監督(上)
私のリーダー論
社会人野球ENEOS監督 大久保秀昭氏
社会人野球ENEOS監督として、都市対抗野球大会で今年を含め4度の優勝に導いた大久保秀昭氏(53)。母校の慶応大でも東京六大学リーグや明治神宮大会を制したアマチュア球界屈指の優勝請負人だ。選手をその気にさせる言葉はどう生まれるのか。勝てるリーダーの秘訣を聞く。
――勝負どころで選手にかける言葉に、魔力があるようです。
「13年の都市対抗2回戦は2点を追う展開で無死一、二塁。定石なら送りバントですが、打者の石川駿選手(元中日)に『ここでバントなら、おまえを使う意味がない。バックスクリーンに放り込んでこい』。そうしたらホームラン。飛んだのは左翼でしたが。次打者につなぐ意識が消え、思い切りいけたのでしょう」
「今年の都市対抗準決勝の一打サヨナラの場面。9番打者の瀬戸西(純)選手に『代打は出さないからヒーローになってこい』。見事に決めてくれました」
――一声が生きるのも、信頼関係が築けていればこそ。
「声かけもしょっちゅうやるのがいいわけではありません。(結果が出なければ)オオカミ少年になるし。高校野球で毎回選手にささやく監督さんもいるけれど、どうかなあ。そもそも言葉一つで選手が劇的に変わるものではありません。結果が伴わないと、信頼関係も築きにくいものです。何年かぶりに予選を突破したり、東京ドーム(本大会)で一つ勝ったり、結果が伴うにつれ、選手の目つきも変わってきました」
「負けた悔しさや失敗からハングリーさが出てくることもあります。しかし、いくら頑張ったつもりでもまたダメ、またダメとなると、負の連鎖になります。目先の勝利しか見えなくなり、戦力が足りないところを取っ換え引っ換えするようにもなる。それではうまくいかないわけです。公式戦の大事な試合で勝つ成功体験を重ねて、チームは成長していくものです」
――今年の都市対抗決勝は0-4の六回、3本塁打が飛び出して逆転勝ち。ミラクルにはタネも仕掛けもあったようです。
「(決勝の本塁打を打った)小豆沢(誠)選手は、私が相手をして一日8千スイングしたことがありました。6時間くらいかかったかな。その前には千本ノックです。『俺もやったことないけど、経験してみないとわかんないよな』と言って。最後はこちらの手もボロボロになりました」
「無の境地になってみるとか、体の芯、心の底から出てくる本気度ってこういうことなんだ、と知るためです。彼自身を鍛えるのもあるけれど、全員へのメッセージでもありました。ただ、あれを美談にしたくはありません。彼ならこなせると思ったからやっただけです」