社会人野球ENEOS・大久保監督 勝てるリーダーの秘訣
社会人野球ENEOS 大久保秀昭監督(上)
私のリーダー論選手や組織の価値高める
――「勝ち」の喜びを得るだけでなく、選手の人生や組織の「価値」を高めなくては、という野球観が指導の根底にあります。
「もちろん監督は大局観をもって全体を把握していますが、究極的には監督がいなくても大丈夫、となるのが理想です。選手には、自分たちで何かをつかみとった達成感を得てほしい。たとえば、スクイズのサインはほとんど出しません。自分が選手なら、自分が打ってヒーローになりたいと思いますしね」
「捕手にしても、ベンチから配球を指示できますが、自分で配球を決めてゲームメークするから面白い。打たれたら反省して、考えるようになります。いちいちベンチがサインを出すとなると、うれしさも悔しさも半減です。選手個人の充実感がないといけません」
「ENEOSは都市対抗で12回優勝し、通算100勝以上を挙げています。こんなチームはほかにありません。日本一にふさわしいチームであるには、強くて勝つだけではいけません。ユニホームも、緩めのダボっとしたものを着るチームが増えてきましたが、やはりベルトが見えるとか、きっちりした着こなしをしていきたい」
「ユニホームや髪形で野球をするわけではないし、自分の思いが強すぎるだけかもしれないけど、伝統や規律といったものがあって、企業チームとしての価値も生まれてくるのだと思います」
(編集委員 篠山正幸)
選手で五輪銀メダル
おおくぼ・ひであき 1969年神奈川生まれ。社会人野球ENEOS監督。桐蔭学園高で強打の捕手として活躍し、慶大では主将として春秋リーグ連覇。日本石油(現ENEOS)時代の96年、アトランタ五輪日本代表で銀メダル獲得に貢献。
プロ野球の近鉄で5年間プレーした後、指導者に転じる。極力サインで縛らず、選手の主体性を尊重する野球で、2012、13年の連覇を含めENEOSを4回の都市対抗優勝に導く。慶大監督でもリーグ戦で3回、明治神宮大会で1回の優勝。
お薦めの本
「論語」(各社版あり)
勝負の場に身を置くと「思い邪(よこしま)なし」などの言葉がしっくりきます。監督がいくら勝ちたいと思ってもだめ。「選手にいい思いを」といった利他の精神の大切さを教えてくれます。
[日本経済新聞夕刊 2022年10月13日付]