産業革新投資機構CEO・横尾敬介氏 私利私欲捨てよ
産業革新投資機構 横尾敬介CEO(上)
私のリーダー論損失処理、自らの責任で
――どう動いたのですか。
「みずほフィナンシャルグループ(FG)の経営会議の前日、経営企画が試算した損失は1000億円弱でした。しかし評価損は1日100億円ペースで増え、市場で売却もできない。楽観的過ぎると感じ、全損で計算し直すよう指示しましたが、現場は動かず、私が引き取りました」
「深夜自宅に帰って辞表を書きました。翌日の経営会議で『資料には1000億円弱の損失とありますが、実態は違い全損するでしょう。残高は4800億円です』と説明すると、沈黙がありました」
――損失処理に筋道をつけようとしたのですね。
「全損するとみずほ証券が債務超過に陥ります。当然責任は私にあり覚悟はできていました。経営幹部に2つの選択の審議をお願いしました。4000億円の増資か、証券会社をたたむリストラ費用としての20億円か、と。すると、みずほFGの前田晃伸社長(当時)がこう仰いました『みずほFGに証券部門がないことはありえない。なぜなら戦略部門だから』と。巨額増資が決まった瞬間でした」
「続けて『立て直しはあなたがやるんですよ』と発言されました。懐の辞表に気づかれたのかもしれません。大組織を率いる経営者の器とはこういうものか、と感じ入りました。己の保身より今何をすべきなのか。私利私欲を廃して判断できるかが経営トップに必要な資質だと思います」
(フィンテックエディター 関口慶太)
JICの立て直し役に
よこお・けいすけ 1951年大分県生まれ。慶大商卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。資本市場やシステムの担当を歴任し、新光証券の発足に尽力した。07年みずほ証券社長に就任。新光証券との合併後の09年みずほ証券社長、11年会長。15年からは経済同友会の副代表幹事・専務理事として政財界の調整役として奔走した。前経営陣が退陣となり、空席となっていた産業革新投資機構(JIC)CEOに19年に就き、立て直し役を任される。好きな言葉は「情熱と志」。
お薦めの本
「リーダーシップ」(ルドルフ・ジュリアーニ著)
2001年に起きた米同時多発テロの事後処理の陣頭指揮をとった元ニューヨーク(NY)市長の自伝的リーダー論。日本でお会いしたときに2冊もらい、自身の教科書に。特に危機管理を学んだ。
[日本経済新聞夕刊 2022年12月15日付]