革新と成長を生む柔軟性 キャシー松井氏のリーダー論
MPowerPartners キャシー松井ゼネラル・パートナー(上)
私のリーダー論
MPower Partnersゼネラル・パートナー キャシー松井氏
ゴールドマン・サックス証券(GS)で副会長やチーフ日本株ストラテジストを務めたキャシー松井氏。日本の金融界では数少ない女性リーダーであり、女性の力を経済成長に生かす「ウーマノミクス」の提唱者でもある。新たなイノベーションと成長には「多様な人材の力を生かす柔軟なリーダーが必要」という。
――いまの時代に必要なリーダー像はなんでしょうか。
「リーダーといえば、力強く部下を率いるイメージがあります。しかしいまは、多様な人材一人ひとりのポテンシャルを生かせるリーダーシップが注目されています。柔軟に周囲に耳を傾け、多様な知見をつなぐような存在です」
「多様性が高いパフォーマンスをもたらすことには多くのエビデンスがあります。経営の成否は、いかに優秀な人材を採用・維持できるか。それでこそイノベーションが生まれ、時代の変化に合わせて柔軟に経営のかじをきれます。自分と似た考え方を持った集団のほうが居心地はいいですが、組織は成長しません」
――多様な人材といえば女性もまさにそのひとつです。
「1999年に『ウーマノミクス』のリポートをまとめました。96年に長男を出産し職場復帰しましたが、まわりには復帰したくてもできない女性がたくさんいました。この人材を活用できれば企業も成長し消費も増えると考えました。反響は主に海外から寄せられ、2013年に政府の政策に取り入れられました」
――女性リーダー育成のため企業は何をすべきですか。
「『キャシー、5分だけいいですか』。GSにいたころ男性の部下はわずかな時間を使っては成果をアピールしてきました。女性はよほどのことがないと声を上げてきません。『いつ空いていますか』では、先になってしまいます。あまりに控えめなのです」
「自分にも失敗がありました。『Work hard and keep your head down』『自分の仕事にフォーカスして良い成果を出せばきっと昇進できる』。働き始めたころに受けたアドバイスです。しかし、これは幻想でした。成果や考え方を周囲に知ってもらわなければ、次のステップに進めない。自己アピールは大事です」
「職業能力は、性別より個人差のほうが圧倒的に大きい。ただし女性はより慎重な傾向がある。だから大事なのは、少し多めに励ますこと。『あなたは必要ですよ』『期待しています』を伝えることが重要です」
「社内のネットワークづくりやメンター制度などさまざまなやり方があります。GSではスポンサーシップもとっていました。高い能力のある女性マネージング・ディレクターに2人の幹部職員をつけ、キャリアをアドバイスするのです」