インド三井物産社長 謙虚さを忘れないリーダーシップ
インド三井物産 ファイサル・アシュラフ社長(上)
私のリーダー論現場目線と多様性を重視
――組織を率いる指導力やマネジメント手法で、上司や同僚から受けた影響は。
「最も印象的だったのは、日本の先輩方が事業の方向性を決めるのに多くの時間をかける一方で、ひとたび決断を下せば決して諦めずに、徹底的にコミットする姿勢です。私にとって非常に重要な学びとなりました」
「例えば、三井物産はインドでの採掘事業を手掛ける鉄鉱石会社に投資していました。採掘現場には事故発生のリスクがあり、労務管理や当局への確認を含め簡単には処理できない事柄が多いのですが、東京のリーダーが現場のための支援を惜しみませんでした」
――新興国で事業を率いるポイントは何でしょうか。
「ひとつは戦略と実行の融合です。例えばインドのような新興市場の場合、ジェット機の高度から見下ろせば『14億人の消費者がいる成長市場』という素晴らしい景色に見えるでしょう。でも実際に現地に降り立つと、完全に異なるものが視界に入ってきます。高みから立てる戦略と、地上での実行を融合させていく必要があるのです」
――戦略と実行の融合には、何が必要ですか。
「謙虚さです。先進国の経営者や戦略担当者は、先進国のビジネスモデルを途上国にもそのまま持ち込んでしまいがちです。現地のニーズに合わせて商品やサービスをカスタマイズするには、市場をありのままに見る謙虚さが重要になります。文化などの違いを踏まえて共通する本質に迫るという、常識に根ざした知性も求められます。インド市場で韓国勢が躍進しているのは価格などのカスタマイズに成功したからでしょう」
「多様なステークホルダーへの配慮も欠かせません。三井物産としての理念でもありますが、リーダーとして、株主・従業員・顧客・政府・社会という5つのステークホルダーの利益を常に確認していくことも必要です」