リーダーは威厳ではなく自ら変化 建築家・隈研吾氏
建築家 隈研吾氏(上)
私のリーダー論
建築家 隈研吾氏
建築家の隈研吾さんのもとには、ビジネス関連の講演依頼がよく舞い込む。本業でないので「大抵は断る」。しかし、その言葉にヒントを求める人が多いのだろう。国内外4カ所の拠点に20~30代中心のスタッフ約350人を抱える。世界で進行中のプロジェクト約100件を統括する。クリエーターとしての創造性を枯渇させることなく、組織をマネジメントする秘訣はどこにあるのだろうか。
――東京、北京、上海、パリに事務所があり、新型コロナウイルスによる外出制限を機に、北海道、沖縄、岡山にもサテライト・オフィスを開設。なぜ多拠点化を進めているのですか。
「コロナ前までの建築や町は都市化と高層化をひたすら推し進めてきました。それが効率的で経済的であると信じられてきたからです。しかし、高層ビルの閉じた箱の中で働くことは、ほんとうに幸福なのか。実はストレスが大きいことに、コロナで多くの人が気がつきました」
「デジタルテクノロジーによって『集中』を緩和させつつ、効率と幸福をもたらすやり方は可能です。それでも人間は惰性に流され、古いやり方をなかなか改められない。ならば、まずは自分の事務所から『分散化』へ方向転換しようと決めました」
「東京の事務所の所員は250人ほど。現場を持つ所員はそれまで週1回、2週に1回といったペースで、飛行機や新幹線で全国各地に通っていました。そこで『移住しちゃえよ』と呼び掛けてみたのです。すると、待ってましたとばかりに若い所員が田舎に移り住んでいきました」
「僕は当初、彼らが田舎で時間を持て余すのではないかと思いました。ところが、富山県のプロジェクトの担当者は、移住先で職人さんと親しくなって、紙すきの技を習得しました。いま、その技を生かして、千葉で江戸時代の豪農の家を再生させる案件でも活躍しています。仕事の幅がこんな風に創造的に広がるのですね。だったら日本各地にサテライト・オフィスをつくり、新しい働き方を模索できないか。『KuMO(Kuma Mobile Office)』の構想を思いつくきっかけにもなりました」
「北海道の東川町、那覇市、岡山県真庭市にKuMOの拠点があります。東川町では、地元の木材を使った建物を建てました。那覇市では、国際通り近くの古いビルを再生。ワインやソーセージを扱う店も入りました。僕の事務所は多くて4~5人ほどなので、そのほかのスペースをオフィスや店舗に貸し出します。ここを利用する人々が自然の中で働いたり、連携して地域に貢献したり、日本中を転々としたりしながら、次の時代の働き方を考えるプラットフォームにしたいですね」