リーダーは威厳ではなく自ら変化 建築家・隈研吾氏
建築家 隈研吾氏(上)
私のリーダー論ドリブルより早くパスを
――建築事務所では所員が経験を積んだ後に独立することが多く、若い世代が中心です。モチベーションを高め、やる気を引き出すコツは。
「若い人たちがものを言いやすい雰囲気づくりが大事です。2004年に『負ける建築』という本を書きました。辺りを威圧する高層ビルのような『勝つ建築』は、その弱さを露呈する時代になった。21世紀には、外力を柔軟に受けいれる『負ける建築』のあり方を探るべきです。目指すべきリーダー像も同じでしょう。威厳などない方がいい」
「リーダーは自らが変わり続けなければ。リーダーが固定化すると、みんなが退屈する。むしろ周りがついていけない、と焦るくらいの気持ちにさせたほうが、組織に柔軟性が生まれる」
――膨大な数のプロジェクトの「質」を保ちつつ、多様な文化背景や経験を持つスタッフを統率しています。
「僕の下に統括役を何人か置いていますが、組織内にヒエラルキーはできるだけつくりたくない。それぞれの現場の担当者たちには『僕をうまく使えよ』という言い方をよくします」

ポルトガルのポルトで複合施設の建設現場を視察する筆者(手前、2022年)
「たとえば設計の過程で、ここで僕が一言しゃべらないと施主が納得しないというタイミングがある。『隈さん、この打ち合わせには必ず来てください』と、言葉こそ丁寧だけど、担当者は僕を使うわけです。会社に入りたての新米であっても、自分がこの仕事を仕切っているんだという意識が持てるか持てないかで大きな差が出てくる。海外の若いスタッフは、上司と部下が互いを使い合う双方向の関係にすぐ慣れます。日本人はまだ上司の顔色をうかがって行動する傾向が強いですね」
「迅速な意思決定にも気を配ります。長い会議はしない。電話で報告を受けたら、すぐ決断する。ドリブルするより早くパスを出す。世界中のプロジェクトは頭に入っている。常にフィールド内にいてパスを出す意識でいます」