ボクサーは負けてからが勝負 成長の源は少しの背伸び
大橋ボクシングジム 大橋秀行会長(上)
私のリーダー論ボクシング界のスター、井上尚弥選手を世に送り出した大橋ボクシングジム。1994年に横浜でジムを興した大橋秀行会長(56)は、これまで世界王者4人を含む多くの好選手を育ててきた。試合のマッチメークは強気で、ファンが見たいカードを提供する敏腕プロモーターでもある。その原動力は「負けてからが勝負」という選手時代からの信念。常に今を楽しむ前向きなリーダーとして、ボクシング界を盛り上げている。
――いつも笑顔の印象があります。
「もともとプラス思考ですが、一番はボクシング、つまり仕事が好きだからでしょうね。ジムの経営は決しておいしい商売じゃありません。会員集めはフィットネスクラブという競争相手がいるし、プロ選手を育てても興行で黒字を出すのは大変です。でも、好きなことをやっているので苦じゃない。人や組織を引っ張る以上、仕事が好きなのは絶対条件だと思います」
――現在はプロ選手40人、トレーナーやスタッフも10人以上、会員は500人を超える日本有数のジムです。リーダーとして心がけていることは何ですか。
「油断大敵といいますが、自分は不満大敵だと思っています。陰で仲間の悪口や不満を言い合っているような組織はうまくいかない。モチベーションの高い人間にも悪影響を及ぼします。自分が現役時代に所属したジムでも同じような経験をしたので、そこにはかなり目を配っています。だから、どんなに外で仕事があっても、少しでも空き時間があればジムに戻るようにしています」

大橋ボクシングジム会長 大橋秀行氏
――多くの世界王者、日本王者を輩出してきました。
「最初はチャンピオンを育てようなんて野心はありませんでした。そもそも世界王者というのは生まれてくる人間であって、育てられる人間ではないと思っていたんです」
「ジムで初めて世界王者になった川嶋勝重との出会いで変わりました。彼は21歳で未経験で入門してきました。しかも勤めていた会社を辞めてきたので、『無謀だからやめておいた方がいい』とこちらが言ったくらいです。しかし、圧倒的な練習量と集中力で、デビュー8年目の2004年に1ラウンドKOで世界王者になりました。選手との向き合い方で大きな影響を与えてくれた選手です」