トップは「逆三角形」の底 厳しくても下は向かない
ブラザー工業 小池利和会長(上)
私のリーダー論
ブラザー工業会長 小池利和氏
名古屋市に本社を置くブラザー工業は創業113年の老舗メーカーだ。祖業のミシンからプリンターや工作機械などに多角化し、海外売上高比率8割のグローバル企業となった。会長の小池利和さん(66)は「入社時から社長の座を狙っていた」という馬力の持ち主で、米国市場を開拓した実績がある。困難に直面しても明るく元気に振る舞い、「リーダーが下を向いたら会社は伸びない」と語る。
――自分はどのようなリーダーだと分析していますか。
「私は物事に対する当事者意識が圧倒的に高いと自負しています。リーダーは常に全体を俯瞰(ふかん)し、従業員とその家族、取引先など多くの関係者を幸せにすることを考えなければなりません。そのためにはグループ全体で何が起きているかを把握する必要があります。トップは三角形の組織の頂点ではなく、逆三角形の底にいるべきです。最終責任はすべてトップが負うからです」
「最適な指示を出すには情報量がカギを握ります。私は工場などの現場を訪れたり、従業員と食事や花見をしたり、コミュニケーションを重視しています。私が素をさらけだすと、みんなも本音で話してくれます。情報を常にアップデートしているので、役員から報告を受けても『それは違う』と感じることも多々あります。プリンター販売を担う米国法人の社長に就いた2000年から、こうしたやり方が染みついています」
――組織が大きくなると情報の把握は難しくなります。
「『営業育ちだから技術に疎い』とか、その逆とか、それではだめです。私は米国時代にも年数回は帰国し、門外漢だった技術や開発について先輩らに積極的に教えを請いました。米国で新商品を提案したり、他社と技術提携したりするためです。『技術がわからず困る』という事態に陥ったことは全くありません」
「米国駐在時は営業をはじめ、マーケティング、商品企画、物流、財務、工場管理など、法人トップとしてあらゆる仕事をこなしたことが、その後の糧になりました。同期や先輩、後輩とも酒を交えて仲良くなり、05年に帰国した後も意思疎通がしっかりとれました」