マンガが誘う歴史ロマン 地動説に始皇帝…驚きも発見も
ブックコラム
©武田一義/白泉社、©魚豊/小学館、©野田サトル/集英社
歴史上の人物や出来事を題材にしたマンガの人気は根強い。
なじみの薄かった時代や地域を舞台に描く作品も近年増えてきた。
歴史への興味を誘う物語。専門家14人におすすめを聞いた。
780ポイント 真理を知りたい 信念貫く美学

©魚豊/小学館
時は15世紀。地球を中心とする天動説が信じられ、地球が太陽の周りを動くとする地動説を唱えるのは異端として禁じられていた。12歳で大学進学が決まった神童ラファウは異端とされた学者との出会いを通じて地動説の存在を知り、魅了されていく。弾圧され、命を奪われるかもしれない。そうした葛藤を抱えつつも真理を追い求め、信念を貫こうとする登場人物たちの物語。
「何なんだ、この熱量はと圧倒される。宇宙の真理を知りたいという思いを受け継ぐ人と人のつながりに心揺さぶられ感動する」(藤村結香さん)、「現代に生きる我々にとっての当たり前が当たり前になるのがどれだけ大ごとだったのか考えさせられる」(書店員すず木さん)と評価する声が集まった。
舞台となるP王国やC教と呼ばれる宗教は架空の設定として描かれてはいるが、「中世ヨーロッパに関する時代考証はしっかりされている」(大貫俊夫さん)との分析も。「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中。
①作者 魚豊(うおと)②出版社 小学館③刊行数 既刊4巻④最新巻税込み価格 650円⑤舞台設定 ヨーロッパ・中世
650ポイント 平和の尊さ かみしめる作品

©武田一義/白泉社
昭和19年(1944年)夏。漫画家志望の田丸はサンゴ礁の海に囲まれたペリリュー島にいた。日本に戻ったら、ここを舞台に冒険マンガを描きたい。そう考える彼を待ち受けていたのは凄惨な現実だった。
「かわいらしい絵柄と戦争の悲惨さの描写のギャップ。戦争を考えるきっかけに広く読まれてほしい」(黒松亜美さん)。「平和の尊さをかみしめる作品」(日吉雄さん)。アニメ化も決定。「ヤングアニマル」で連載、7月に最終巻が出た。
①武田一義、平塚柾緒(太平洋戦争研究会)②白泉社③全11巻④660円⑤パラオ諸島・太平洋戦争末期
560ポイント アイヌ民族・文化 丁寧に描写

©野田サトル/集英社
日露戦争を生き残った杉元佐一は北海道に隠された埋蔵金の存在を知る。手掛かりは脱獄囚の体に刻まれた模様だけ。アイヌ民族の少女アシㇼパとともに在りかを追うが、金を狙うのは彼らだけではなく……。
「丁寧なアイヌ文化の描写が素晴らしい。日本全体に通ずる物語なのも面白い」(美土路奈々さん)。「魅惑的な登場人物が織りなす群像劇は歴史とマンガの面白さを両方教えてくれる」(吉村和真さん)。「週刊ヤングジャンプ」で連載中。アニメ化もされている。
①野田サトル②集英社③既刊27巻④594円⑤日本・明治時代
530ポイント 秦の中国統一への道 葛藤と奮闘

©原泰久/集英社
春秋戦国時代の中国、後に始皇帝と呼ばれる秦の王・政、孤児ながら天下の大将軍を夢見る信を中心にその葛藤と奮闘を描く。
「秦が中国を統一する具体的な過程は教科書でほとんど触れられず、理解の空隙を埋める意味で意義深い。政(後の始皇帝)の善良な人物造形も独特」(田中良英さん)。「今の歴史マンガといえばこれ!というくらいの圧倒的面白さ。迫力のある戦闘シーンや人物たちの駆け引きは見応えがある」(西室浩之さん)。「週刊ヤングジャンプ」で連載中。実写映画もある。
①原泰久②集英社③既刊62巻④638円⑤中国・春秋戦国時代
490ポイント 男女逆転 巧妙な設定

©よしながふみ/白泉社
江戸時代、謎の疫病で男性の人口が女性の4分の1に減り、社会構造は激変。幕府の将軍職も女性が継ぐようになり、男たちの「大奥」が築かれる。男女逆転の架空世界での物語だ。
「実に巧妙かつ効果的な設定。男女の立場がひっくり返った社会をみるのは愉悦と悲哀を同時に引き起こす」(大貫さん)。「江戸時代の出来事を丁寧に拾い物語に組み込むことでキャラクターの厚みが増すのが素晴らしい」(田中香織さん)。実写映画・ドラマも。「MELODY」での連載が今年完結した。
①よしながふみ②白泉社③全19巻④748円⑤日本・江戸時代