変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

共同生活から感謝育む

――現代の建設現場ではさらに機械化が進んでいます。

「例えば木材を現場で移動させるときには、昔は全て人が担ぎ上げていました。本当に大変なことですが、それがいい。一度置いたら二度と動かさなくて済むように知恵を働かせることになります。足場も同じで、工事を始める前の全く何も無いところに自分たちで足場を組み立てます。そして、ここに屋根がくる、ここに柱の上部がくると分かった上で足場をつくっていきます。職人とはそういうものです」

――育ちも性格も異なる弟子たちが集まってきます。

「木は一本一本、密度も節の位置もばらばらで、みな不ぞろいです。積み上げたり組んだりすることが大変です。鵤工舎の若い弟子たちも、入社したときは不ぞろいでばらばらです。それを一つにまとめあげます」

――集団をまとめるために必要なことは何ですか。

「あいつは気が合わないなどと思っていては仕事ができません。いがみ合う気持ちが生まれるのは仕事の時しか顔を合わせないから。若手は入社当初は何も仕事ができないので、食事づくりや掃除、片付けに取り組みます。かつて自分が食事担当だった経験がある先輩も『あいつは飯をつくっているから、じゃあこのかんなをやるか』と優しくなります。お互い自然と感謝の念が湧いてきます。共同生活を通じて少しずつ仕事を覚え成長していきます」

(桜井豪)

総棟梁として後進育成


おがわ・みつお 1947年栃木県生まれ。家具職人や仏壇職人の元を渡り歩き、21歳で「最後の宮大工」とも呼ばれた西岡常一棟梁に入門。唯一の内弟子となり、法輪寺三重塔、薬師寺西塔などの再建に携わった。77年に奈良県斑鳩町に鵤工舎を設立し、その後故郷の栃木県に本社を移転。現在は両県に拠点を構える。全国から弟子を受け入れ、寺社建築の技術を伝えている。2007年に鵤工舎の代表を譲り、現在は総棟梁として後進育成などに関わる。03年に「現代の名工」に選ばれた。

お薦めの本


「男の作法」(池波正太郎著)
池波正太郎氏の物を大切にする姿勢に共感します。現代は物にあふれているので気づきにくいかもしれません。宮大工にとって手の延長である大工道具を、思い入れをもって手入れしています。
[日本経済新聞夕刊 2023年3月23日付]

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