多様性は企業・組織の活力 インド三井物産社長
インド三井物産 ファイサル・アシュラフ社長(下)
私のリーダー論成長へ「領域」超えた挑戦を
――具体的にはどのような助言をしていますか。
「誠実な価値観を伴ったアジリティ(機敏さ)と革新性、成果志向も訴えています。『完璧な状況を待ってから新ビジネスに参入にしよう』というのは無理な話です。完璧な状況がやってくることはなく、延々と待つことになります。『よくなるまで待とう』ではなく、『小さなことからでも始めよう』と伝えます」
「安定性を伴ったスピード感を意識してほしいと思っています。特に若者は結果を出さなければいけないというプレッシャーから、時にルールを破る誘惑にもかられます。それでも100%のコンプライアンスと誠実さを確保するよう求めています」
「コンフォートゾーン(心地よい領域)を超えていく動機づけを与えることも心がけています。自信と安全を感じるために私たちは常にコンフォートゾーンを好みます。でもそこから踏み出して挑戦を続けなければ成長はありません。三井物産のように事業領域や地域が多様な組織にとって人材育成と事業開発の神髄はそこにあります。管理職も含めコンフォートゾーンを抜け出すよう促しています」
――インド出身者として日系企業のマネジメントを担う立場から、人材の多様性が持つ意義は何だと考えますか。
「経済のグローバル化が進むなか、ビジネスモデルを各地のローカルなニーズに対応させる必要性が増しています。海外市場での展開において現地の代表者なしにどうやってカスタマイズができるのでしょうか。高見から描いた計画は、現地での多様性に裏打ちされなければなりません。QSBCプログラムを実施する目的もそこにあります」
――英語が母語でない部下との意思疎通での留意点は。
「なるべくシンプルな表現を心がけています。英語で聞いた話を頭の中で日本語に翻訳し、日本語で答えを用意してからまた英語に翻訳する人もいて、この過程で細かなニュアンスが失われがちです。理解されているのか個別に確認するようにしています」
本質共有する改革推進
――日本企業ならではの稟議(りんぎ)書をまわす経験に戸惑ったそうですね。
「日本企業では社外のプレゼンと同様に、財務や物流、技術担当者など様々な立場の社内の人々を説得する必要があります。その過程で核となる本質から逸脱してはいけません。ある物流インフラに関する設備投資プロジェクトで、社内の利害関係者への働きかけが足らずに頓挫したことがありました。十分な合意なしには正しい戦略も成り立たないと痛感しました」
「東京の金属資源本部にいた13年に、初めて稟議書作成に挑みました。全文英語での稟議書は三井物産初だったそうです。中国やペルーなどにまたがる複雑な事業で、法務や金融部門など様々な立場との折衝を経て8カ月程度かけて仕上げました」
「その後マレーシアに異動しましたが、現地スタッフにとっても稟議や根回しなど日本流の意思決定システムは『謎』でした。私は自分の経験にもとづき、複雑で不可解だった目的やポイントを解きほぐしていきました。その結果、英語での稟議もスムーズになりました。日本企業の良い面も悪い面も理解した上で、本質を共有するための改革は必要なのだと思います」
――今後の目標は。
「インド三井物産では30年までのストレッチ目標を作成しました。インドで成功し、すべての新興国で通用するような三井物産のプレーブック(戦略集)を作りたいです」
(ムンバイ支局長 花田亮輔)
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毛針釣りで自然を満喫
仕事を離れてリラックスする秘訣は、週に1回はプレーするゴルフだ。釣りも趣味で、家族とともに毛針を使ったフライフィッシングなどをたしなむ。水生昆虫類を擬した釣り針のデザインは季節や生態系によって変える。それぞれの環境の違いを意識したうえで、深く自然に入り込んでいく過程が魅力だという。
日本では中禅寺湖や湯ノ湖へ釣りに行った。10月に、ヒンズー教の新年「ディワリ」休暇を利用してヒマラヤでも釣りを楽しんだ。
リーダーを目指すあなたへ
自らのビジョンを明確にする能力とそれを実行に移す意欲を持ってください。率先垂範して、自らが身を乗り出していくための準備も大切です。指導と権限委譲を通じて、確かなリーダーを育成しておくことが必要です。