おいしい菓子を世界へ テクノロジーの力、分かち合う
ユーハイム 河本英雄社長(下)
私のリーダー論できたて届けるAI職人
――AIオーブン「THEO(テオ)」を20年に実用化しました。
「テクノロジーの本質は誰かが独り占めするものではなく、みんなで分かち合うものではないかと考えています。テオは勝手においしいお菓子を作るものではありません。あくまで模倣学習で、バウムクーヘンを1本作ってはデータをとっていきます。人間の職人を育てていくのと同じような作業を重ねます。20年12月にテレビ東京の番組『カンブリア宮殿』に出演させていただいた後に、ある和菓子屋さんからお手紙が届きました。新型コロナウイルス禍で苦境にあるということで、テオをぜひ使わせてほしいということでした」
「テオはバウムクーヘンしか焼けませんが、人手不足などの問題解決のため、また遠く離れた場所にもできたてを届けるため、この技術を生かせるのではないかと考えています。そこで、AI職人であるテオの派遣事業を始めました。22年3月までに国内外で約40台が稼働する予定です。20年ほど前にパリの華々しい舞台から一度は引きずり下ろしてしまった後も交流を続けていた、天才パティシエのフィリップ・コンティチーニのロンドンの店舗にも導入しました。コロナ禍でも『バウムクーヘンでもう一勝負しよう』と誓い合っています」

「味覚の魔術師」と評される天才パティシエのフィリップ・コンティチーニ(右から2人目)と「バウムクーヘンでもう一勝負しよう」と誓い合う(英ロンドンで)
――食に関するスタートアップ支援にも乗り出しています。その狙いは。
「テオの開発を通じて、いろいろな人たちが協力し合って何かを実現していくということがテクノロジーの世界では不可欠だと感じました。みんなで集まれば、できることは増えるのではないかと。名古屋市に『バウムハウス』という拠点をオープンさせまして、フードテックのスタートアップを支援しています。製品の展示スペースやシェアオフィスなどを設けて、支援先の営業や販売を代行し、国内企業との橋渡し役になれればと考えています」