異質性を取り込む組織に 建築家・隈研吾氏
建築家 隈研吾氏(下)
私のリーダー論業界の枠超える人材育成
――国立競技場や国内外の高級ホテル、駅舎や庁舎、商業施設、美術館などの建築物だけでなく、仏壇や竹細工風のスニーカーもデザインしています。なぜこれだけ多種多様なプロジェクトを手掛けられるのですか。
「数年がかりの大きな案件では、若手は図面ばかり描かされてフラストレーションもたまる。それをやりつつ、小さいプロダクトみたいな仕事にかかわることでモチベーションが保てます。僕自身にとっても新鮮で、繰り返しにならない。公共建築が続くと、ああ、小さいのがやりたいなあと思います」
「香川県では、1棟のサウナ小屋も設計しました。僕らくらいの規模の事務所はふつう引き受けない仕事です。依頼主の企業が自分たちで工事をやると聞き、多少の冒険ができると思って、引き受けました。完成したのは、28ミリの薄いベニヤ板1500枚を150段積んだ不思議な建物です。木の組積造への挑戦ともいえる、複雑な構造は、施主の理解と覚悟があって実現しました」

2022年、貝をイメージしたサウナ「SAZAE」が香川県・直島のグランピング施設に完成した
――建築の枠を超えて活躍する後進も巣立ちました。
「東京で台湾のパイナップルケーキのブランドの店舗を設計しました。この案件の担当だった堂園有的くんはオーナーに気に入られ、引き抜かれてブランドの日本のゼネラルマネジャーになりました。独立後に空間デザイナーとなって、カフェについて本を書き、個性あるカフェを設計している加藤匡毅くんも元所員です。東大での教え子だった前田瑶介くんは、世界の水問題の解決を志して、小型浄水システムを開発する会社を創業しました」
「文化的な公共建築を手がける建築家だけが偉くて、商業的なものは亜流。建築界にはそんなヒエラルキーがいまだにあります。『そういうのに縛られている限り、おもしろいことはできないよ』。口を酸っぱくして言い続けたのがよかったのかな」