セイコーG会長・服部真二氏 「人」が信頼の決め手
セイコーグループ 服部真二会長(下)
私のリーダー論――商社時代の上司からはどのようなことを学びましたか。
「鉄鋼メーカーの製品を輸出する時は商社が為替予約をしていました。為替予約は円安の時にやるほうが利益が出ます。普通は販売契約したらすぐ為替予約するのですが、あるとき私は円安になると読んですぐには予約しなかったんです。予想通り円安になり、もうかったから褒められるかと思っていたところ、課長からこっぴどく怒られました」
「その時に教わったのが、仕事では余計な危険を冒さないということです。為替の変動要因はさまざまで、紛争や災害など、いつ何が起こるか分かりません。リスクを負って万一多大な損失が出てしまってはいけません。経営としてのリスク管理というのを初めて学びました」
社員の士気 直筆で鼓舞
「海外からのクレーム対応も経験しました。フィリピンに輸出した鉄鋼から錆(さび)が発生しました。鉄鋼メーカーの調査で原因が判明してから謝りに行こうと思っていたのですが、課長から『いいから早く現地にいけ』と。いかに早く頭を下げに行くかが重要だ、と。今から出れば間に合うぞ、と言われるがまま、すぐ空港からフィリピンに飛びました」
「現地に着いてから送られてきた原因のリポートを受け取り、それを英語で何とか現地の人に説明しました。迅速に動くことそのものも仕事では大事だと学びました」
――直筆でメッセージを送ることを大切にしているそうですね。
「商社のころからです。当時はワープロで文字を打つ人もいませんでしたから。自分で書いてコピーして、それを送る習慣がついています。今でも節目では書いていますよ。業績を上げたい年は役員にも年賀状でも一言、今年はこれを一緒にやろう、頑張ろうとか書きます」

学生時代はスキーやテニスなどスポーツに情熱を注いだ
――部下をやる気にさせる秘訣は何でしょうか。
「褒めることが大事です。当社は失敗しても挑戦した結果であれば社員の前で表彰する『ビッグチャレンジ賞』という制度を導入しています。昔は減点主義でしたが、それだと(社員のやる気が)出ない。私も、三菱商事で製鉄会社に営業していた中で褒められたことでやる気につながった経験があります」
「アポなしで各社を回るのですが、競合の商社マンも同じように動いていますから、商談相手の回りには10人くらい群がっています。待ち時間が長そうであれば見切りを付けて他社に行くのですが、ある会社を訪れた際、順番が来るまで待ってみたことがあります。すると後日、『服部は帰らず待っていて偉い、と褒めていたぞ』と私の上司から連絡がありました。うれしかったですし、褒められるのも大事だなと思いました」