ヤマトが本気のリスキリング デジタル人材1000人目標
リスキリングtopics社内教育「ヤマトデジタルアカデミー」が発足
大きな転機になったのがヤマトが2021年4月に発足させた社内教育の「ヤマトデジタルアカデミー」だ。社内から毎回30人ほどを選抜して2カ月間のデータ教育を行う。講師2人体制でプログラミング言語の「Python(パイソン)」やデータベースを操作する言語の「SQL」などを教える。職場に戻ってからもフォローが続く。入社7年目でアカデミー入りした福井は、今も一日1~2時間を学習に充てている。
実は福井はアカデミーに参加する以前から自腹で学校に通い統計学や機械学習の基礎を学んでいた。管理者の経験に頼る部分が大きい集配拠点で働きながら、世の中全体がデータサイエンスを必要とする大きな社会変化の流れを感じていた。「いずれヤマト運輸でも同じことが起こると思っていました」。文系出身の福井はその流れに取り残されまいと、一念発起した。
予感は正しかった。創業100年を迎えたヤマト運輸の親会社、ヤマトホールディングスが20年に公表した長期経営計画「NEXT100」で、次の100年の柱となるのが「データ・ドリブン経営への転換」だったからだ。

人口減少に伴う配送現場の人手不足、Eコマースの普及による配送量の増加、そしてAI(人工知能)に代表される新しいテクノロジーの登場――。典型的なアナログ職場だった物流業界を取り巻く環境はすでに急変している。
物流の老舗企業が始めたデジタル改革のキーマンとなるのが、19年夏にSOMPOホールディングスから引き抜いた執行役員の中林紀彦だ。中林は日本IBMでデータサイエンティストとして国内外の顧客企業のデータ分析を支援してきた。大学の客員教授も兼ねるなどデータ人材教育の経験も持つ。
日本企業のデジタル改革に関して、中林は「日本IBM時代から数多くの失敗例を見てきた」と話す。デジタルの活用はあくまで改革のための手段であり、目的ではない。そこを間違えると表面的な改革に終わってしまう。
社長室に配属された中林が、真っ先に飛び込んだのがヤマトの物流現場だった。実際に荷物を配送するトラックに乗り、全国に75カ所あるベース拠点では深夜の仕分け作業を経験した。見えてきたのがヤマトが抱えるデジタル改革の壁だった。