老舗西陣織12代目が語る 世界と渡り合う美意識
『日本の美意識で世界初に挑む』著者に聞く
ブックコラム
西陣織の老舗、細尾12代目の細尾真孝社長
日本独特の美しさを表現する京都の伝統工芸「西陣織」。高級和装の代名詞的な存在が今、全く異なるジャンルの新素材として注目を集めている。ディオール、シャネル、ザ・リッツ・カールトン、レクサス…ラグジュアリーブランド店や外資系ホテルの壁紙、自動車の内装部分などに西陣織が利用されている。斬新なイノベーションで挑戦しているのは1688年から続く老舗「細尾」の12代目・細尾真孝社長。まだ43歳の若きリーダーだ。近著『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)では「ウィズコロナ時代の日本企業は生産性や効率でなく、ひとりひとりの持つ美意識を磨くことで国際マーケットを開拓できる」と説いている。
ディオールでの採用が転機に
――約1200年前から続く西陣織は、現在では率直に言って斜陽産業です。国内の着物市場規模は1989年の約1.5兆円から2800億円規模にまで縮小し、西陣織も10分の1以下になったといいます。
「危機感があるからこそ、新しい試みに挑戦し続けることができています。経営者として一番に心がけているのは固定観念を打ち破ることです。最初は海外市場の開拓に苦戦しました。しかし2009年にニューヨークの著名な建築デザイナーから、ディオール店内の改装に西陣織を使いたいという依頼があり、それが転機となりました」
――西陣織らしい豪華絢爛(けんらん)な色彩が欲しかったのでしょうか。
「ところがそうではありません。数千本の縦糸と横糸を交差して織り上げる1200年間に築いた技術が欲しいという注文でした。立体的で多様な素材を織り込む西陣織の特徴が認められ、ディオールのニューヨーク店では椅子やソファの張り地、壁紙に西陣織が使用されました」

ザ・リッツ・カールトン東京の客室ではヘッドボードやクッションに西陣織が使われている
「『海外市場で売り込むには和柄でなくては』『織物を使った製品でなくては』といった固定観念を覆し、大きく視野を広げさせてくれました。テキスタイル自体を販売するならば、さまざまな用途が可能になります。西陣織の生地幅は、昔から32センチと決まっていました。これも織機そのものを新しく開発・製造することで150センチ幅の生地を可能にしました。今ではラグジュアリーホテルなどの壁紙や客室のヘッドボード、クッションなどにも細尾の西陣織が使われています」