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高賃金な女性は、高賃金な男性ほど稼げていない

 2018年に私が行った研究で、最終学歴や勤続年数などの条件をそろえた上で男女の賃金を比較したところ、女性のなかで賃金が高い上位10%にいる人でも、男性の上位10%の人ほどは稼げていないことが分かりました(*1)。1980年から2015年までのデータを比較しましたが、特に10年と15年を見ると、上位10%の層で格差が急拡大しています。

上グラフの横軸は賃金の高さ、縦軸は男女の賃金格差の大きさを表す。2010年と15年の線を過去のものと比較すると、賃金の低い層での格差は縮小傾向にあるが、賃金の高い上位10%(横軸の90より右の範囲)で、格差が拡大している(*1)

上グラフの横軸は賃金の高さ、縦軸は男女の賃金格差の大きさを表す。2010年と15年の線を過去のものと比較すると、賃金の低い層での格差は縮小傾向にあるが、賃金の高い上位10%(横軸の90より右の範囲)で、格差が拡大している(*1)

 同じ水準の学歴で、勤続年数などの属性も同じなら、生産性も同じであると考えられます。そうであれば同じ賃金がもらえると考えるのが自然ですが、この分析結果は、実際には女性が男性ほど稼げていないことを示しています。

―― 2022年のジェンダーギャップ指数ランキングでは、日本の「教育」分野のスコアは「1」、つまり男女平等だとされました。「健康」の分野でもほとんど男女差がないのに、「政治」と「経済」の2分野ではどちらも男女差が大きい状況です。男性と同等の教育を受けて働き続ける女性が男性ほど稼げない、その理由は何でしょうか。

 2つ考えられます。1つは、女性は昇進しづらいこと。もう1つは、女性は昇進しても賃金スケールの下位の仕事に割り当てられやすく、男性ほどには賃金が上がらないということです。私が1990年と2015年のデータを用いて、昇進に伴う昇給幅を男女で比較したところ、男性では15年のほうが昇給幅が大きくなっていましたが、女性は昇給幅が小さくなっていました。

写真はイメージ=PIXTA

写真はイメージ=PIXTA

また別の、日本の製造業の人事データを用いた研究では、職場における幅広い経験が女性の昇進確率を高める一方で、男性ほどの賃金上昇につながらず、女性が大幅な賃金上昇を伴わない役職への昇進を受け入れていることが指摘されています(*2)。例えば同じ課長という肩書でも、男性は将来の経営層候補を輩出するような花形部署で課長となり、女性は小さな部署で課長になる、といったことが考えられますね。

英国の研究でも、女性は男性とほぼ同じ割合で昇進しているが、昇進に伴う賃金上昇は小さく、同じポジションの男女の場合、女性はそのポジションの賃金水準の下限にとどまっている可能性がある、と報告されています(*3)。

もしも学歴や勤続年数に違いがあり、生産性に差があるのなら、賃金に差がついても仕方がありません。生産性の高い人に高い賃金が支払われなければ、従業員のモチベーションが保てなくなり、組織は衰退していくからです。

しかし学歴や勤続年数が同じで生産性が同じであるにもかかわらず、賃金に男女差があるのは、どこかに「見えない障壁」があると考えざるを得ません。

―― 見えない障壁、とは何でしょうか。

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