女性は昇進しても男性ほど賃金上昇見られない なぜ?
ダイバーシティ合理的に判断したつもりが、悪気のない差別に
原 1つは、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)です。特に日本は、「男性は外で働き、女性は家を守る」というジェンダー規範が強く、例えば「働くことは女性には向いていない」などという無意識のバイアスによって、女性に大きな仕事が与えられにくくなっている可能性があります。
もう1つは、「統計的差別」といわれる問題です。統計的差別とは、目の前の相手に関する情報が少ない場合、過去の統計的なデータに当てはめて合理的に判断したつもりが、結果的に不平等な判断をしてしまうことを指します。
例えば「女性はこれまで出産で会社を辞める人が多かったし、育休から復帰しても成果を出しづらい人が多かった。この人も長く働かないだろうし、成果も出せないだろう」といった具合です。
―― 目の前の女性のことがよく分からないから、「過去の多くの女性たち」をもとに判断するということですね。悪気はないのかもしれませんが……。
原 不確実性が高まっている時代、過去の事例をもとに未来を予測することには、合理的な側面があります。しかし、過去の女性たちとこれからの女性たちは同じではありませんし、そもそも個人の事情は人それぞれ違うわけですから、注意が必要です。
―― 学歴や勤続年数が同じでも、女性は男性に比べて研修や出向の経験が少なかったり、育児や介護のため多様な経験を積むだけの時間がなかったりして、結果的にスキル不足となり、昇進が遅れたり、花形ポストに就きづらくなっていたりするかもしれません。
原 長時間労働によって評価されるシステムでは、女性は男性と同じ評価を受けることは難しいでしょう。また米国の研究では、時間や場所に拘束される、突発的な対応が多い職場では、なかなか男女間の賃金格差が埋まらないという報告もあります(*4)。時間や場所に制約されない働き方は、女性が評価を伸ばしやすいだけでなく、男性にとっても働きやすいはずです。日本が変わっていくために、こうした新しい働き方が広がっていくことに期待したいです。

(取材・文 久保田智美=日経xwoman編集部)

*1:Hara, H.(2018) "The Gender Wage Gap across the Wage Distribution in Japan: Within- and Between-Establishment Effects," Labour Economics, 53, pp. 213-229.
*2:Sato, K., Hashimoto, Y. and Owan, H.(2019)"Gender Differences in Career," Journal of the Japanese and International Economies, 53, 101028.
*3:Booth, A., Francesconi, M. and Frank, J.(2003)"A Sticky Floors Model of Promotion, Pay, and Gender," European Economic Review, 47, pp.295-322.
*4:Goldin, C.(2014) "A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter," American Economic Review, 104 (4), pp.1091-1119.