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課題の設定を間違うとせっかくの分析が無駄になる

データサイエンティストの仕事を大きく分けると、課題を「見つける」、「解く」、分析結果を「使わせる」という3つのステップがあります。各ステップごとに、必要となるスキルを、事例も交えて説明していきましょう。

まず「見つける」に関しては、①ビジネス課題特定のスキルがとりわけ重要です。なぜなら、どんなに時間をかけてデータを分析し因果関係がわかったり、精度の高い予測モデルが作れたとしても、実際の業務改善のアクションや故障の低減などの成果につながらなければ、無駄になるからです。そうならないためには、分析に取り掛かる前の段階で、本当に解くべき課題は何なのかを深く考え、設定しなくてはなりません。

実際はこれがなかなか難しいんです。私自身もたくさん失敗してきました。例えばある時、お客さまの工場から「気泡が発生し不良品が出ている」と相談され、データをもらって分析し、2週間後に「原因を突き止めました」と勇んで報告に行きました。ところが「え?もうとっくに解決したよ」と言われてしまったのです。現場にいるのはその道のプロですから、いくつかのセンサーデータで数日前から異常値が出ていたと気づき、そこを直すだけで問題は解決していたのでした。

このケースで私が最初に聞くべきだったのは、不良品が出ることによる損失額と、いつまでに答えが欲しいかという期限でした。

そもそも損失額が仮に月50万円だったとしたら、データサイエンティストのコンサル料は最低でも月150万円はしますから、2週間かけて原因を特定したところで全く割に合いません。であれば、気泡の解決には間に合わなくても、今後同じことが発生した際にすぐ対処できるよう「製造時のセンサーデータを、誰もがリアルタイムで見られるようなグラフを作る」という課題設定をしていれば、根本的な解決策になったはずです。データは今、どこにでもあるので、狭い領域でとりあえずテーマを作って分析を始めたくなるものですが、たいてい何の成果も生み出しません。反対に、広い領域にまたがる課題を正しく設定できれば、データ分析自体にたいした手間をかけなくても、ビジネス上大きな効果につながるのです。

山本さんがよく読み返すという河本教授の著書「データドリブン思考」(写真左)と、統計解析の基本が学べるオススメ本

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このビジネス課題特定の重要性については、日本のデータサイエンティストの草分けで私も尊敬する河本薫さん(滋賀大学データサイエンス学部教授、元大阪ガスビジネスアナリシスセンター所長)が、さまざまな講演や書籍で繰り返し強調しています。私も忘れないように半年に1回は著書を読み返すようにしています。

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