シェア8割の株式型クラファン 経験ゼロで起業のワケ
FUNDINNO代表取締役CEO 柴原祐喜氏(上)
キャリアの原点人は多様、常識に意味はない
柴原氏は米国での留学生活で大きく2つの気づきを得たという。1つは、自身の強みをアピールする大切さだ。周りは優秀な学生ぞろいで、ともすると劣等感にさいなまれそうになることもあったが、自分の強みや良さを改めて意識することで、壁を乗り越えたという。
「例えばグループワークの授業などでは、みな気が強くてガンガン自分の主張をするので、なかなか議論がまとまりません。僕自身は何が何でもクラスをパスしなければ、という事情もあるので、議論が収束せずにアウトプットゼロと評価されるのだけは避けたい。そこであえて調整役を買ってでるようになりました。日本の中では『和をもって尊しとなす』というのはどちらかというと、なあなあだとか、優柔不断だとかネガティブに捉えられることもありますが、アメリカでは議論のまとめ役ができる人は実は少ない。そうか、これは逆にストロングポイントになるのだと気づきました」
もう1つの学びは、人は多様であり「常識」なんてものに意味はないと気づけたことだという。日本にいると「○○人」と国単位でひとくくりに人を捉えがちだが、米国ではたとえ同じ国の出身であっても、人種も宗教も価値観も多種多様。さまざまなグラデーションがあり、「○○人」などというラベルにはほとんど意味がないと悟った。
「カリフォルニアはアメリカの中ではリベラルですが、人種差別は存在しています。僕自身、街を歩いていて差別的な言葉を向けられることもありました。でも、みんながみんな差別的なのではなく、その場にいる友達の中には、僕以上に怒って言い返してくれる人もいました。アメリカでは何事においても、全員が同じ方向を向いているということがないし、みんなに共有されている『常識』というものがそもそもない。『常識』という考え方自体がこれからの時代は意味がなくなっていく。そういうことが肌感覚でわかったように思います」
目標とする起業も旧来の「常識」を疑うところから始まる。その大切なスピリットを体で感じたことは大きかった。のちに実際、金融業界の経験なしに金融業に参入するという常識破りをすることになるが、そこに至るにはもう少し時間を要した。卒業時点でビジネスのアイデアはまだ浮かんでいなかったし、より深く勉強したいテーマがあったからだ。そのテーマとは「未上場株の価値算定」。ベンチャー企業の価値の源泉とは何かを探る研究で、将来起業する上でも役立つと考えた。明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科にその問題に詳しい木村哲教授(当時)がいることを知り、門をたたいた。
「日本のベンチャーを盛り上げたい」と意気投合
「研究自体は面白かったが、日本ではアメリカと違って起業そのものが少ないために未上場株のデータが不足しており、思うように研究が進まないジレンマも感じた」と柴原氏。だがこの大学院で重要な人物と遭遇する。のちに共同代表として起業することになる大浦学氏(FUNDINNO代表取締役COO=最高執行責任者)だ。

留学から帰国後、夜間のビジネススクールに通い、そこで大浦学氏(右)と出会ったことが起業のきっかけになった(左は柴原氏)
「夜間のビジネススクールだったので40歳前後の社会人が多く、僕らだけ20代で浮いていました。それで自然にいろいろな話をするようになり、『日本のベンチャーを盛り上げていきたい』という考えで意気投合したのです。その時点で具体的なビジネスモデルは思いついていなかったのですが、ダラダラしていると夢だけ語って動かないヤツになってしまいそうで、とにかく行動しようと会社を作ることにしました」