シェア8割の株式型クラファン 経験ゼロで起業のワケ
FUNDINNO代表取締役CEO 柴原祐喜氏(上)
キャリアの原点2012年、柴原氏は大学院を修了、大浦氏は引き続き大学院に在籍しながら2人はシステム開発・経営コンサルティング会社を立ち上げた。システム開発を掲げたのは、この先どんな事業をやるにせよITは必須で、システム開発の知識・経験を身に付けておく必要があると考えたからだ。資本金には、カリフォルニア大を卒業後インターンとして働いてためた資金を充てた。
しかし、会社を「とりあえず」作ったところで当然ながら仕事はない。当初はエンジニアにコードの書き方などを習っていたが、今のようにシェアオフィスなども普及していない時代、事務所として借りたマンションの賃料やエンジニアの給料などで資本金は瞬く間に消えていった。
「慌てて営業に回り、当時は受託開発の仕事が潤沢にあったおかげでホームページの企画制作などの仕事が入るようになりました。最初の頃は、工数の見積もりすらまともにできなかったので、本来であれば50万円の仕事を5万円で受けてしまうような失敗もありました。そこからなんとか軌道に乗って2年目に黒字化したのですが、そこで立ち止まったのです。自分たちは、ベンチャーの環境を良くしたいと起業したはず。原点に戻って、もっと本気で一生をかける価値のある仕事、社会から本当に必要とされる仕事をしようと」

米国での会社登記を見据えていたが、法改正を受けて国内企業に切り替えた
日本のベンチャーの課題は資金調達の難しさ
そこで、これまで感じてきた課題を総ざらいした結果、浮かび上がってきたのが、日本のベンチャー企業の資金調達の難しさだった。
「大学院で日米のベンチャー企業の比較をした際、まず気になったのが日本のベンチャーの資本金の少なさでした。日本の場合、ベンチャーが親族や友人以外から資金を調達しようとすると、実績もない段階では銀行からの融資はほとんど受けられません。となると頼れるのはベンチャーキャピタル(VC)や、大企業がバックについたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、エンジェル投資家くらいしかない。今でもベンチャー投資の総額で言うと、アメリカでは年間約17兆円なのに対し、日本ではわずか0.5兆円という圧倒的な差がある。その環境を変えたいと思いました」
2014年当時、海外に目を向けると、英米を中心に、ベンチャー企業がインターネットを通じて不特定多数の個人から小口の資金を集める「株式投資型クラウドファンディング(CF)」が注目され始めていた。一方、日本ではまだ関連の法令が定まっておらず、国内で株式投資型CFを事業化するのは難しいことがわかった。そこでカリフォルニアにいる友人に依頼し、米国での会社登記をもくろんだ。ところが15年、事態は急展開する。
「当時は金融関係者の情報ルートもなく、まったく予見できていなかったのですが、アベノミクスの流れで日本でも金融商品取引法の一部が改正され、国内でも株式投資型CFができるようになったのです。『時代の先を読んでいた』と言えばかっこいいですが、運が味方してくれました」
その年の11月、2人は日本クラウドキャピタル(現FUNDINNO)を設立。事業開始に必要な「第一種少額電子募集取扱業者」の登録を申請した。「いよいよ日本初の株式投資型CFを作り、個人投資家と共に日本のベンチャーの強力な応援団になるのだ」。高校時代に思い描いた起業家の夢が近づき、胸が高鳴った。しかし、その先には大きな試練が待っていた。
(ライター 石臥薫子)